コラム
「元極妻」芳子姐さんのつぶやき60

追悼・安部譲二さん――極道から作家になった「究極のお坊ちゃま」に合掌

2019/09/15 16:00
待田芳子

 なんせお坊ちゃまですから、お父さんの本棚も充実していたそうです。漱石の全集や世界文学全集などはローティーンの頃に読破していて、文学の才能もあったんですね。中学生の頃に応募した小説が江戸川乱歩の目に留まり、「この子は心が病んでいる」と心配されたというのも以前に話題になりました。

 究極のお坊ちゃまで、貧困や差別には無縁なのに極道になったのは、やはり「心」のせいなのでしょうか。ケンカばかりしていて、あの安藤組の安藤昇さんにスカウトされています。当時の安部さん14歳、安藤さん26歳くらい。すごい時代です。やっぱり14歳特有の「中2病」もあって、いろいろやらかしたくなるんでしょうか。

■「オレのほうが安部よりおもしろい」

 安部さんが『塀の中の懲りない面々』を出版されたのは1986年、バブル全盛の頃でした。この頃ってゴルフやスキー、マリンスポーツや海外旅行、高級レストランなどにお金が使われた時代で、本はあまり売れていなかった……というのは後から聞きました。

 しかも、「国内で前科14犯、海外で前科3犯の40歳過ぎの元ヤクザ」ですから、当初はどこの出版社も相手にしなかったそうです。でも文藝春秋の編集者が評価して発売が決まり、発売1カ月で25万部のベストセラーになったんですね。

 編集者さんによりますと、10万部を超えると性別や世代、職業などに関係なく読まれるていることになるそうですから、読んでいたのはヤクザだけではないんですね。むしろサラリーマンさんとかのほうが溜飲を下げられていたかもしれません。

 でも、実は少なくないヤクザたちが、安部さんに対してヤキモチを焼いていたんですよ(笑)。今みたいにスマホもありませんから、ヤクザはけっこう本を読んでいました。それに、塀の中はヒマなので、読書の習慣もできるようです。

 安部さんをテレビや新聞で見かけるたびに、オットの兄弟分たちは「ワシのほうがおもしろいのを書ける!」とか「ここの文、間違ってる!」とか「こんなんウソばっかりや!」とか、言いたい放題でした。文句あるなら、自分も書いたらいいんですよ。特にアルコールが入るともう大変で、「アベを呼んでこい!」的なモードになってました。もちろん本当には呼ばないし、呼べませんけどね。

 過去にヤクザからの恐喝を含むイヤガラセが来たかどうか、安部さんに聞いてみたかったです。合掌

最終更新:2019/09/15 16:00
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