コラム
【連載】オンナ万引きGメン日誌

鮮魚チーフは弁当泥棒、それでも店長は見て見ぬ振り……Gメンが地団駄を踏んだ「内引き」事件

2019/09/07 16:00
澄江

 およそ1カ月後、お店から指名を受けるかたちで勤務に入ると、以前と変わらぬ様子の店長が私を出迎えてくれました。挨拶もそこそこに、私を指名した理由を、店長が切り出します。

「先日は、ありがとうございました。今回は、内密にお伝えしたい話もあって来てもらったんですけど……。鮮魚チーフの件は、忘れてください」
「忘れろとは、どういう意味でしょうか?」
「実は、本部に報告したんですけど、解雇できる状態になるまで放っておくように言われたんです。代わりの人が見つかるまで、見て見ぬ振りをして、好きなだけやらせておけと……」

 あまりの話に言葉を失いましたが、クライアントの指示は絶対で、なんの異論もありません。

「もう行動確認しなくて大丈夫ですか?」
「はい。防犯カメラの映像で被害を確認して、やめてもらうときに、まとめて請求するみたいです。いつになるかは、わかりませんけどね。とにかく口外しないようにしてください」
「承知しました」

 もう見なくても良いと店長から指示されましたが、休憩時間における鮮魚チーフの行動が、どうしても気になります。保安員の性なのでしょうか、犯行を見ておきたいという気持ちが抑えきれないのです。休憩時間をずらして、いわば興味本位で鮮魚チーフの行動を確認すると、この日の昼食も前回同様、商品代金を支払わないままバックヤードに持ち込みました。犯行の一部始終を確認できているにもかかわらず、見送るほかない状況に地団駄を踏んでいると、どこからか精肉チーフがやって来て囁きます。

「あいつ、自分ちにあるモノのように持っていくよな。あいつの店じゃねえのに……」
「恐らくは、毎日のことですよ。腹立たしいことです」
「次の人、早く決まるといいなあ」

 自分の店という意識が規範意識を喪失させるのでしょうか。まるで自分の家のモノを扱うように商品の横領を続けた結果、大きな代償を支払うことになるのは当然のこと。まもなく、責任を取らされる予定の鮮魚チーフでしたが、この日から数年経過した現在も、この店で働いています。求人募集をしても、まったく応募がないそうで……。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

最終更新:2019/09/07 16:00
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