サイゾーウーマン芸能テレビアジア系ハーフをめぐる日本的な“序列” 芸能 『ザ・ノンフィクション』レビュー 『ザ・ノンフィクション』アジア系ハーフをめぐる日本的な“序列”「フィリピンパブ嬢の母とボク」 2019/09/02 20:04 石徹白未亜 フジテレビザ・ノンフィクション アジア人のハーフをめぐる日本的な序列 一方の健の両親は仲が良く、昭也が抱えているような問題は見えない。しかし健はフィリピンパブで働く母親と、ハーフである自分にコンプレックスを抱えている。一方で高校のときにハーフであることを学校でからかわれたのをギャグで返し教室がどっと沸いたのがお笑いの道を志したきっかけにもなっている。健にとってフィリピンのハーフであることはコンプレックスでありながらも、エンジンにもなっているのだ。 ただ、健がネタを考える「ぱろぱろ」のフィリピンネタは、健の母親が「(フィリピンを)どっかでバカにしてるなぁという気持ちはありますけどね」 と浮かない顔で話すようなものが多く、健にその思いも伝えていた。 番組の最後に流れた単独ライブでは「フィリピンを笑いのネタにするのではなくフィリピン人である母と自分の思い出を笑いに変えていました 」とナレーションされており、母親の訴えを受けて何かしらの改善はされていたと思われるが、放送されていたネタの一部は「やーいやーい、お前の母ちゃんフィリピン人」「お前もだろ」 というやりとりで、そこを見る限り「バカにする」視点はさほどなくなっていないように見える。 しかし、「ハーフ」をネタに日本で笑いを取るならどうしたらいいのだろう。思い浮かぶのはアメリカ、フランスのハーフが、ステレオタイプ的な国民性(アメリカ=ヒーローやリーダー願望、フランス=“おフランス”的な気取った感じ)をネタにする、というものだ。しかし、これの「アジア版」はかなりのハードルを感じる。「お前声でかいわ!」「○○人ですから~」は炎上必至だ。 アジアをネタにしづらい理由として、欧米より距離が近く、日本と歴史的しがらみを抱えているというのもあるが、ほかにも少なくない日本人が21世紀の今でも「脱亜入欧魂」を抱えているのもあるのではないか。欧米人のハーフならカッコいいけど、アジア人のハーフは……という暗黙の序列に引っ張られているから、健の同級生は教室でからかったのだろう。そして当人である健も、その序列に縛られている。そして「そういうネタで笑うのは失礼だ」と“良識的に”思う人とて、どこかで縛られている。 「そういう日本人の序列って笑えるよね」と漫才で表現できたら、潜在的な差別意識を説教臭くなく指摘する快挙だと思うが、それを毒蝮三太夫の高齢者いじりが如く「ただただ爆笑してしまう」に昇華させるには、想像を絶するようなスキルやセンスがいるだろう。 石徹白未亜(いとしろ・みあ) ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。 HP:いとしろ堂 前のページ12 最終更新:2019/09/02 20:04 楽天 フィリピンパブ嬢の社会学 BTSの躍進で欧米への憧れもだいぶ薄まったと思う 関連記事 『ザ・ノンフィクション』、『24時間テレビ』の裏で放送した障害者ドキュメントの意味『ザ・ノンフィクション』美奈子はイライラしたい人の“絶対的アイドル”「新・漂流家族 2019夏 ~美奈子と夫と8人の子供~」『ザ・ノンフィクション』言動が演技っぽい人種とラーメン「天国のあなたへ…~「ラーメンの鬼」の背中を追って~」『ザ・ノンフィクション』五輪という夢と呪い「運命を背負い続けて~柔道家族 朝飛家の6年~」『ザ・ノンフィクション』整形オーディションに賭ける二人の女性「シンデレラになりたくて…2019」 次の記事 テラハ史上最もダサいキス >