フジテレビ社長に「女として好みのアナ」を質問――山崎夕貴が破った「女子アナの暗黙の了解」
では、女子アナの「気づいていないフリ」とは何か。
例えば、フジはかつて『オレたちひょうきん族』という番組を放送していたが、この番組では女子アナがプールに落とされたり、水をかけられたりする演出が多かった。当時子どもだった私でも、プールに落とされるタイミングはわかったが、女子アナたちは逃げない。オトナになると気づくが、あれは単なる笑いではなく、男性へのサービスという意味も含んでいた演出だったのだろう。美人アナウンサーがびしょ濡れになり、洋服が透けたり、ボディーラインが出ることに性的な興奮を覚える男性視聴者も多かったと推測する。だから、女子アナはお仕事としてプールに落とされなければならない。なので子どもでもわかる見え見えの展開でも、「気づいていないフリ」をする必要があったのではないだろうか。それはつまり、「女として」見られていることにも、「気づいていないフリ」をしているということだ。
この流れは、今日でもあまり変わっていないと思う。『モヤモヤさまぁ~ず2』(テレビ東京)でアシスタントをしていた大江麻理子アナは、さまぁ~ずの命令で筋トレ道具を使い、両足を大きく開いてМ字開脚のような体勢を取らされたことがある。そこで「やめてください!」と言うことは、その体勢がM字開脚であると認識していることと同じだろう。しかし、大江アナがМ字開脚だと「気づかないフリ」をして応じれば、番組は進行するし、男性視聴者も喜ぶ。大江アナはよくきょとんとした顔をしていたが、これは「気づいていないフリ」を表情で表したものではないだろうか。
女子アナは自分の美貌やその価値についても、「気づいていない」ように振る舞う必要があるように思う。女子アナと言えば、ミスコンの覇者が多いことでもよくわかるように、美貌が要求される職業と言えるだろう。しかし、女子アナがアナウンサーとしての資質に美貌を挙げることはない。例えば、TBSラジオ『ジェーン・スー 相談は踊る』で、「どうしたらアナウンサーになれるか」という女子大生に対し、同局の江藤愛アナは「なりたいという気持ちが大事」「アナウンサーが出した本を読む」とアドバイスしていた。江藤アナは準ミス青山に輝いているが、女子大生に「見た目も重要」というようなアドバイスをはしない。美貌が必要なことは明らかではあるものの、「女として」認められたからではなく、あくまでも「会社員として」有能であると認められたふうに振る舞うのが、女子アナの掟というやつではないだろうか。
接客のプロという意味ではなく、「オトコを喜ばす」という意味のホステスだと揶揄されることも多かった女子アナ。山崎アナの先輩にあたる中村江里子は、女子アナの性的な部分がクローズアップされたり、意図的にスキャンダラスに書かれることに対し、1998年の「週刊文春」(文藝春秋)で、「いい加減にしてよ女子アナいじめ」というタイトルで寄稿している。エルメスフリークとして知られていた中村は、とんねるず・石橋貴明にかわいがられていたこともあって「石橋から渡されたカードでエルメスを買っている」など書き立てられたことに怒り、中村をはじめとする女子アナは「会社員として」堅実に仕事をしていると訴えていた。
しかし、あれから20余年の時を経て、後輩である山崎アナは、この「#Me Too」時代に「女性アナウンサーは社長に気に入られたいと思っている」と話したり、「女として、好みの女性アナウンサーは?」と質問することにより、フジもしくは女子アナのホステス気質を暴露してしまったわけだ。これは間違いなく、フジ全体のイメージダウンだろう。
「NHKから国民を守る党」が「NHKをぶっ壊す」というスローガンを掲げたとき、「あり得ない」と受け止めた人は多かったことだろう。しかし、選挙で勝利した。地方出身で、就職試験まで一度も東京に来たことがなく、売れない芸人と結婚した“庶民派アナ”の山崎アナが、フジテレビをぶっ壊してしまう日があり得ないとは言い切れないかもしれない。
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。