『かりそめ天国』の「飯尾No.1 女性管理職編」に見る、気づかれにくい「セクハラの芽」
同企画は、飯尾が会社訪問をし、女性上司に会い、部下に仕事ぶりを聞く。そして「誰の部下として働きたいか」を決めるというものだ。その会話の中で、性的な話をしたりすることはまるでない。にもかかわらず、私がこの企画をセクハラ的だなと思わずにいられなかったのは、会社員に“魅力”を問うのが、適当だと思えなかったからだ。
キャバクラのお仕事は、女性の魅力で多くの男性を惹きつけて、指名を稼ぐことと言えるだろう。指名の数が給料に直結することを考えると、彼女たちの優しさや美しさは「仕事」であり、「有料のサービス」と言える。一方、男性から見れば、キャバクラは金を払って好きな女性を選んでいい場所である。そういう世界で生きるキャバ嬢にとって、「飯尾No.1 キャバ嬢編」は通常業務の延長だろう。テレビに出るだけで箔付けにつながるし、幸運にも飯尾No.1の座を得れば、指名も増えるだろうから、いい宣伝になると言える。
しかし、会社員は違う。会社員は人気商売ではなく、事務職や営業職などのプロとして採用されている。女性管理職は「女性だから」管理職に登用されたわけではなく、仕事の能力が管理職にふさわしいと判断されて、昇進したはず。なので、「この女性上司の下で働きたい」というテーマそのものが、そもそもおかしいのではないだろうか。男性上司ではなく、女性上司をターゲットにしているのは、女性に「特別なもの」を求めていると私には感じられるのだ。
会社員の女性に対する「特別なもの」を求める姿が、飯尾が某社を訪問した際の会話にも出ていた。広報の男性が、首からぶらさげるタイプの入館証を飯尾に手渡した。飯尾は「あの方(受付嬢)から受け取りたかった」といい、広報の男性は「すみません」と謝罪する。
広報の男性が飯尾に来館証を渡したのは、それが広報の仕事だから。しかし、飯尾は「女性からもらいたい」という「サービス」を無料で要求しているのである。会社員は事務や営業などのエキスパートとして仕事をして、その対価として給料をもらっているわけだが、一部の男性は、仕事とは関係ない「サービス」を、無料で女性に要求したり、受け入れてもらえることを当然のことと信じてやまない。これがセクハラの芽であると言えるのではないだろうか。
視聴者のクレームを恐れる昨今、テレビの制作側も、いろいろ配慮していると思う。No.1キャバクラ嬢より、No.1女性上司の方が、女性を「応援している」印象を与えるので、女性視聴者を怒らせない。企業側も、女性上司をテレビで紹介してもらえたら、自社の宣伝とイメージアップにつながる。飯尾も、お笑い芸人として、おちゃらけて見せたわけで、本気とは限らない。誰も悪意などないし、それぞれの仕事をしたまでだろう。
しかし、悪気がないからこそ、一番タチが悪いと言えるのではないだろうか。女性は会社員としての仕事をおろそかにすることなく、本業におおよそ関係ないサービスを無料で要求されても、笑顔で受け入れてほしいという意図が見え隠れするからだ。
「#Me Too運動」をきっかけに、セクハラがいけないという気運が高まったことは事実で、恐らく、女性のカラダを触ったりするような、あからさまなセクハラは減っていくだろう。しかし、こういう「女性に本分以外のことを要求してもいい」という甘えを信じる男性が一定数いることを考えると、セクハラの根絶には、かなりの時間がかかるのではないかと思わずにいられない。
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。