吉本興業、地に落ちたイメージは回復できる? リスク管理の専門家が「すべきこと」を解説
白井氏は、2011年に島田紳助が、暴力団関係者との交際を明かし、芸能界を引退した件を振り返りながら、今回の騒動の背景にある吉本興業の“驕り”を指摘する。
「吉本興業は、島田さんをリスク管理で“切った”という過去があります。その際、どんなことをしてでも、反社のリスクをなくすといったスタンスだったにもかかわらず、今回、二度目の問題を起こしてしまった。テレビ局は、取引先の反社との関わりを最も嫌がるものですが、恐らく吉本興業は、『とは言っても、吉本芸人がいなければ、番組の出演者を揃えられないでしょう?』といった傲慢な部分があったのではないでしょうか。今回の騒動に関しても、はっきり言って、芸人を使って“笑い”に変えさせることで、幕引きしようとしていたというか、当初は軽い気持ちで対応していたのではないかと思ってしまいます」
この騒動では、明石家さんまやダウンタウン・松本人志、極楽とんぼ・加藤浩次、ナインティナイン・岡村隆史など、事務所の大御所がさまざまな意見を発したことで、収拾がつかなくなった面もあるが、これは吉本興業が初動でミスを犯したことの現れだという。
「危機管理の視点から言うと、企業はこういったことを『起こしてはいけない』のです。誰か一人でも口を開けば、次々に意見をする者が出てきます。吉本興業は当然、どのタレントがインフルエンサーなのかわかっているでしょうから、であれば、会社側が騒動勃発当初、インフルエンサーのタレントたちに対し、『ぜひご意見を頂戴したい』と、幹部陣との話し合いの場を提案すればよかったと思います」
吉本興業ではなく、宮迫と亮が先に会見を開いたのも、白井氏は「順番がおかしい」と感じたそうだ。
「特殊詐欺グループへの闇営業問題発覚後、宮迫さんが先に会見を行い、その中でパワハラ問題が浮上して、岡本社長が会見を開いたという流れですが、ゆえにこの会見は、非常に複雑な内容となってしまいました。本来であれば、まず会社として謝罪会見を行うべきでしたね。会長、社長、コンプライアンス部門の役員が出席したうえで、『これまで反社の遮断に対応してきたが、今回防ぎきれなかったこと』を経営管理視点で謝罪する。またその会見の中で、宮迫さんを含めたタレントに対し、岡本社長にパワハラと疑われる言動があったことがわかり、内部監査を行った結果、本人も認めたのでその点も謝罪を行う……という形が望ましかったのではないでしょうか」
しかし実際には、岡本社長は個人として会見に登場し、「パワハラ発言を『言ったの、言わないの』の話をして、最終的には『場を和ませる冗談のつもり』だったと。そもそも謝罪会見であるはずなのに、記者から事実確認をされて口ごもるシーンもあるなど、説明会見のような内容となっており、最初から軸がブレていた印象もありました。1,000人の社員、6,000人のタレントを抱えるような大きな会社の社長が、たくさんのマスコミから注目される会見でする対応とは思えませんでした」と、白井氏は厳しく指摘する。
そんな吉本興業だけに、白井氏は、「信頼回復に時間がかかるかもしれない」と感じているそうだ。
「マスコミ報道は1カ月ほどで鎮静化するでしょう。しかし、3度目の反社に関する問題を起こすことはあってはなりません。今後、経営アドバイザリーが、透明性を確保しながら、新ルールの運用プロセスを世間に公表していくと思われますが、それを人々は『やはり吉本はリーダーカンパニーだ』と受け取るか、はたまた『やっぱりダメな会社だ』と受け取るか。どちらに転ぶかが、今後の吉本興業の一つの試金石になると思います」
果たして、吉本はこの苦境にどう立ち向かうのか――。今後も注視していきたい。
白井邦芳(しらい・くによし)
社会情報大学院大学教授。米国外資系保険会社で危機管理担当役員などを歴任。一般財団法人リスクマネジメント協会顧問、経営戦略研究所外部講師。ゼウス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長。フジテレビドラマ『リスクの神様』、テレビ東京『ハラスメントゲーム』の監修も務めた。