「双子の老女」による巧妙トリック!? 万引きGメンを混乱させた「女子トイレ」での一幕
数日後、以前に見送った老女が、前に見かけた時と同じ服装で店内に入ってくるのが見えました。今回も大きな紙袋を手にしていますが、重量感は感じられず、一見したところ何も入っていないようです。売場に立ち寄ることなく、トイレに直行していく彼女を遠目に見守っていると、正面口からナイロンバッグを手にした老女が入ってきました。彼女もまた、前に見かけた時と同じ服装をしています。一瞬、おばけでも見ているような気持ちになりましたが、先の出来事と照らし合わせてみると、ようやくに事態が飲み込めました。
(この人たち、双子なのね。これは、わからないわ……)
実行役と思しきナイロンバッグのきんさんを監視下に置き、その行動を見守ると、今回は高価な牛肉や加工肉を始め、メロンやいちご、それに和菓子などを手慣れた様子でナイロンバッグの中に隠していきました。商品の隠匿を終えたナイロンバッグのきんさんは、案の定、トイレに向かって歩を進めています。追尾中、たまたま居合わせた副店長を捕まえて、事情を話しながら声掛けに立ち会ってもらうようお願いすると、少し嫌な顔をしながらも引き受けてくれました。トイレ内に入って、個室の扉をノックしたナイロンバッグのきんさんが、個室内に潜む紙袋のきんさんに、未精算の商品が詰まったナイロンバッグを手渡したところで声をかけます。
「お客様、そちらのバッグに入れた商品、ご精算いただけますか」
すると、突然に個室の扉が閉まって施錠されると同時に、ナイロンバッグのきんさんが私たちを振り払うように早足で歩き始めました。副店長に警察への通報と個室の見張りを頼み、事務所への動向に応じるよう並走して説得を試みます。
「大丈夫だから、お話を聞かせてください。逃げると大事になりますよ」
「私は、関係ない。お金は、姉が払うと思う」
店外に出たナイロンバッグのきんさんが自転車で走り出そうとするので、ハンドルを必死に抑えて制止していると、異変に気づいた矢崎滋さんに似た店長と数人の男性店員が駆けつけてくれました。揉み合いの中、ざっと事情を聞いて激昂したらしい店長は、オラついた巻き舌で何かを怒鳴り、自転車にしがみつくナイロンバッグのきんさんを自転車から引き剥がしにかかります。いとも簡単に引きずり降ろされたナイロンバッグのきんさんは、首根っこを掴まれた猫のような形でトイレまで連行されると、待機していた副店長にその身を預けられました。それからまもなく、ドンドンと激しくトイレの扉をたたき始めた店長が、個室内に籠城する老女に向けてドスの利いた声で怒鳴ります。
「開けろ、おら! 早く出てこい!」
それでも扉が開く気配はありません。そこで業を煮やした店長は、若い店員にモップを持ってくるよう指示すると、残った人にお尻を押させて扉を登り始めました。左手でモップを受け取り、柄の部分を下に持つと、それをスライドさせて見事に鍵を開けてみせたのです。
「なによ、あんたたち! 女が用を足しているのに、ひどいじゃないのよ!」
開けられた扉の中では、紙袋を抱えた老女が、スウェットパンツをおろした状態で便器に座っていました。店長をはじめ、居合わせた男性全員が、すぐに俯いて目を背けた瞬間が、とてもおかしかったです。