「双子の老女」による巧妙トリック!? 万引きGメンを混乱させた「女子トイレ」での一幕
昼のピークを迎えて混雑する店内を巡回していると、酒売場の通路で眼(がん)を振っている老女に目が止まりました。商品や値札を吟味することなく、そっぽを向きながら商品に手を伸ばす姿が気になったのです。ユニクロらしきグレーのスウェット上下を着込んだ彼女は70代前半くらいで、子ども用に見える派手な蛍光色のスニーカーが、その正体を不明にさせます。顔を見れば往年の大女優であられた菅井きんさんを意地悪にしたような感じで、左手首に下げられている使い古されたナイロンの手提げバッグが、彼女のやる気を証明しているように見えました。
(常習っぽいけど、初めて見る顔ね)
それから、缶ビールや缶チューハイを数本ずつバッグに隠した彼女は、年齢にはそぐわない素早い動きで出入口脇にあるトイレに向かっていきます。同性であることに感謝しながら、少し間をおいてトイレに入ると、何も手にしていない状態の彼女がハンカチで手を拭っていました。2つある個室は使用中で、それとなく周囲を見回すも、先程お酒を隠したバッグは見当たらない状況です。
(どこに隠したのかしら?)
トイレから出て、そのまま出口に向かった彼女は、店舗前の駐輪場に止めてある自転車に跨がりました。売場にいた時とは違って、周囲を警戒する様子も見せずに、平然と立ち去っていきます。
釈然としないまま、持ち込まれた商品を探すべく再度トイレに戻ると、いましがた見送ったばかりの彼女が、大きな紙袋を持って個室から出てきました。声を上げたくなる衝動をこらえて、我が目を疑いつつ改めて彼女の姿を確認すれば、蛍光色だったはずの靴がグレーのサンダルに変わっています。
(一体どういうことなのかしら?)
声をかけようにも、目切れ(途中、目を離すこと)した状況であるし、犯罪供用物であるバッグも変わっているため、それは叶いません。出口に向かった彼女は、さっきと違う場所に停められた自転車に跨ると、先程と同じ方向に自転車を走らせました。何がどうなったのか、よくわからないまま彼女を見送ります。自分の見たものが信じられない。そんな違和感を抱えたまま、その人着(人の性別、年齢や服装、持ち物などを把握すること)を脳裏に焼き付けて、しっかりと“貯金”しました。