若者の「政治アレルギー」とどう向き合う? 「ViVi」炎上を経た、ファッション誌編集者の葛藤
「自社がもし特定の政党に絞った企画が上がってきたら、それは断固拒否します。特に『#自民党2019』のように、一党に絞った揚げ句『なんか良さそうな雰囲気』で読者を誘導することが嫌です。また、出版社をはじめその企画に携わった人々が、漏れなくその“思想”を支持するということを意味しているので、もし自分たちが知らない間に自社からそのような発行物やキャンペーンがあったとしたら純粋にショックですし、内容によっては反対・抗議を考えますね」
「ViVi」自民党タイアップ企画をめぐる炎上を見て、もしこの事態がわが身に降り掛かったら……を想像し、あらためて「あの企画はあり得ない」と感じたというA氏。しかし一方で、この騒動において「ファッション誌が政治を取り扱うこと自体は賛成」といった声が世間から上がった点には、思うところがあったようだ。
「『今後、政治を取り上げる予定はあるか?』と問われると、正直なところ“政治”を前面に押し出した企画は考えていません。例えば、いまだに日本は、芸能人が政治的発言をするとアレルギー反応が出るような環境なので……」
芸能人の政治的発言は疎まれる傾向にあるというのは事実だろう。実際、NEWSのメンバーで、小説家や情報番組のコメンテーターなど文化人としての顔を持つ加藤シゲアキが、「朝日ジャーナル」(緊急復刊2016年7月7日号、朝日新聞出版)の中で、学生団体「SEALDs」に賛同の意を表明した際、一部ファンから「個人の思想の自由は認められるべきだけど、ジャニーズの看板を背負っているなら発言を控えてほしい」「アイドルに政治的発言はしてほしくない」という批判の声が上がった。また、モデルのローラが昨年末、自身のインスタグラムに「We the people Okinawa で検索してみて。美しい沖縄の埋め立てをみんなの声が集まれば止めることができるかもしれないの。名前とアドレスを登録するだけでできちゃうから、ホワイトハウスにこの声を届けよう」と投稿、さらに沖縄県宜野湾市・米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設工事中止について署名活動を行ったところ、「芸能人はイメージ商売だし、政治的な発言ばかりしているとCMで使いにくくなりそう」「浅い知識で行動するのはやめてほしい」と非難の言葉が相次いだ。
A氏は「政治について語る機会を提案することや、選択肢を提示することは大切という認識はあります。しかし、こうしたアレルギー反応を恐れている面も確かにあるのです」と語る。「ファッション誌が政治を取り扱うこと自体は賛成」という声がある一方、現実問題、政治について語ること=「過激」「危険」といったイメージも根強く、A氏はその狭間で頭を悩ませているようだ。
海外に根付く、「語ることがクール、気にしない方がダサい」という価値観
しかし、海外に目を向けてみると事情は異なってくる。10~20代の若者が集まる米国内のコンサートで、来場者に有権者登録(アメリカで投票前に必須となる登録)を呼びかけた歌手のアリアナ・グランデが、「若い世代の政治への関心を高めている」と称賛されているほか、A氏いわく「パリコレクションなどのランウェイでは、女性の権利やトランプ政治への反対意見など、世の中のムードやそれに対する表明が大きくされている」とのこと。日本でそういった土壌を育むには何が必要なのだろうか。
「海外には、政治や時事について『語ることがクール、気にしない方がダサい』という価値観があるんですね。それを、いかに日本の若年層に浸透させるか……といった点を考えていくことが大事だと思います。その前段階として、“アレルギー反応を起こさせない”ことに留意すべきなのかもしれません」
A氏はこうした実感から、「突然、真正面から政治問題を扱う」ことは得策ではないと感じているようだ。
「例えば、『反戦』などは、若い読者でも取っつきやすいのではないかと思っています。直接的ではなく、“間接的”なテーマから始めること。それが、特に若者向けのファッション誌で政治を扱うために必要なことだと感じます」
2016年の6月より、公職選挙の選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられ、若者による積極的な政治への参加が期待されている。一方で、若年層の投票率はいまだに低いのが現状。7月21日に参院選が行われるが、今後の在り方として、ファッション誌やSNSなど若者が目にしやすいメディアが、政治意識を高める役を買って出ることが重要になってくるのかもしれない。