生理用品のパッケージデザインは「納得いかない」――美大准教授が語る“違和感”の正体
――「蝶柄」や「レース柄」についてはどう思われますか。
渡部 蝶柄やレース柄に関しては「かわいい」の象徴として起用されていると言えます。私感ですが、日本における「かわいい」の感覚は、プレ・ディズニーランド世代、ポスト・ディズニーランド世代で差があるのではないでしょうか。東京ディズニーランドが開業したのが1983年。生まれた頃、すでにディズニーランドがあった世代の「かわいい」という感覚は、ディズニーに影響されていると思うのです。特に、ディズニープリンセスがプロダクトとして出てきた2000年代初期に、子ども時代~思春期を過ごした世代以降は、その影響を受けていると感じています。
もちろん、ディズニープリンセス以前もお姫様のイメージはありましたが、パーティなどの特別な機会以外で自分が身につけるという感覚はほとんどなかったと思います。また、かつては蝶柄やレースにピンクや紫色が組み合わさると、いわゆるセクシーな下着も連想させたのです。しかし、ディズニープリンセスが登場したことにより、濃いピンクや紫といった色とレースやリボンを、躊躇なく受け入れられる女性が増えたと考えています。
――確かに、ディズニープリンセスのイメージと生理用品のパッケージには似たものがありますね。渡部さんは大学で教鞭をとっていらっしゃいますが、実際に若者は、生理用品のパッケージに関して、どう感じているのでしょうか。
渡部 学生の中には、特にパッケージを気にしたことはなく、「母親が買ってきたものを使っている」という子もいるんですよ。自分で買っているというゼミの学生からは、次のような意見を得たのでご紹介します。
学生A「花柄や蝶柄、レースなど、ガーリーなデザインを好む同年代女性はいると思いますが、私自身は抵抗があります。愛用しているのは『ロリエ スリムガード』(花王)。これはサイズがピンク、黄色、緑と色別になっていて、見慣れてしまえばすぐにわかる点がいいと思います。パッケージでいいなと思ったのは、生理用品っぽくない茶色のパッケージに、うさぎの絵が描かれている『オーガニックコットンナプキン』(コットン・ラボ)です」
学生B「私は、パッケージは気にせず機能で選んでいます。使っているのは、薄くて羽つきがいい『スリムガード』。ナプキンの形そのままのイラストをパッケージに入れている商品があり、わかりやすくていいとは思うのですが、レジに持っていくときに少し抵抗があります」
学生C「私も使い心地重視。蛍光色とか派手なピンクよりもあまり色が派手でない、シンプルなパッケージの方が買いやすい。なぜユニセックスなデザインではだめなのか疑問です。使っているのは、『elis Megami 素肌のきもち』(エリエール)。パッケージではなく使い心地で選びました」
このように、「かわいい」パッケージの対象となっていると思われる20代前半女性の中にも、「デザインに抵抗がある」という子がいるのです。それでも、こうしたデザインが世に溢れているのは、「パッケージは気にしない」あるいは「目立たなければいい」「形がわかればいい」と思っている人が多いとも言えるでしょう。
渡部千春(わたべ・ちはる)
東京造形大学准教授。デザインジャーナリスト。1969年新潟生まれ、93年東京造形大学卒業。世界の日用品、食品パッケージなどを研究。『これ、誰がデザインしたの?』『続・これ、誰がデザインしたの?』(美術出版社)、『北欧デザイン』(プチグラパブリッシング)、『北欧デザインを知る』(NHK生活人新書)など著書多数。
ブログ「これ、誰がデザインしたの?」