「民主主義の下で同じ事例は見たことない」――文化服装学院・服飾史の専門家が「ViVi」×自民党に警鐘
――日本では、「反体制としてのファッション」が生まれにくいような気がします。
朝日 新しいファッションは若者から生まれますが、日本の若者は諸外国に比べると、政治に対する興味関心が薄い気がします。それが、反体制とファッションが結びつかない理由のひとつかもしれません。
――日本は政治とファッションの関わりが薄いのでしょうか。
朝日 60年代のヒッピームーブメントの時代、日本人も「ベトナム反戦運動」や「フォークゲリラ」に参加し、70年代には日米安保により「学生運動」が起こりました。でも、80年代以降の日本の若者は、体制に逆らわなくなった。2015年に安全保障関連法案に反対する大規模デモが行われましたが、あれが久しぶりだったのではないでしょうか。日本のファッションは基本的に、政治とはあまり関係ない場所で流行が生まれてきたと思うのですが、しかし、影響はされているでしょうね。
――どういった影響が見られますか。
朝日 日本のファッションは60年代~90年代まで、「ヒッピー」とか「コギャル」とか、流行がわかりやすくはっきりしていたんです。でも、2000年代以降って何がはやったかカテゴライズするのが難しくて、10年代になると、流行なんだか流行じゃないんだか、わかりにくいファッションが多くなってしまいました。そんな時代だからこそ「ViVi」の広告が掲載できたとも言えるでしょう。ファッションが好きでこだわりのある人から見れば、これはおしゃれじゃないですから。今までの歴史では、あり得ないことです。
しかし裏を返せば、これは日本の若者のファッションに対する意識がレベルアップしたということでもあります。「流行の服を着てないと不安」とか、「みんなと同じ横並びという安心感」から脱却したんですよね。
――このPRは、成功したといえるのでしょうか。
朝日 これだけ話題になれば、炎上商法的には成功したんじゃないでしょうか。それに、さほど政治に興味のない人にとっては、印象に残ったという意味で、自民党にプラスに働いているようにも思います。この記事に嫌悪感を抱いた人は、そもそも政治に関心を持っている人でしょうし。ただ、今までの価値観から見ると、“ダサい”ですけどね。
――ファッションと政治は、どのような距離感が最適だと思われますか。
朝日 政治とファッションがつながること自体は、悪いことではないと思います。政治に興味のない人も、ファッションによって興味を持つ入り口になるから。でも今回の件に、「ViVi」読者に対して「政治の興味を持ってほしい」という意図があったとするなら、自民党だけじゃなくほかの政党の話題も取り上げる誌面を作るべきですね。現状だと、“偏り”がありますから。
――こうした現状がいきすぎて、ファッションが体制に取り込まれる可能性はあるのでしょうか。
朝日 それはないと思います。ファッションは、“アンチ”じゃないとファッションじゃない。おしゃれじゃないと、ファッションにはならないです。今も昔も、そこは絶対に揺るぎません。
(番田アミ)
■朝日真(あさひ・しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。1988年、早稲田大学卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』(グラフィック社)共同監修。NHK『テレビでフランス語』(NHK出版)テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。NHK『美の壺』他テレビ出演。