ギャルもサブカルも“田舎”へ吸収される――山内マリコ×笹井都和古対談「地方出身女の生き方」
2016年度、新潮社が主催する「女による女のためのR-18文学賞」にて、芸人・友近が選出する「友近賞」を受賞し、今年3月に刊行された『県民には買うものがある』(新潮社)。表題作では、滋賀県の片田舎に住む女子高生の、性やSNSでのコミュニケーション、そして消費活動に対する葛藤が、身につまされるほど克明に描かれている。まさに“県民”の気持ちを代弁したかのようなこの作品に、読者からは共感の声が多数寄せられていた。
作者は、滋賀県出身の笹井都和古さん(25)。彼女の作風は、これまで誰も描かなかった地方の“くすぶり”を見事に言語化した小説『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎)の作者・山内マリコさん(38)に影響を受けているという。滋賀と富山、地方出身の2人から見た都会とは――。
東京よりも、「まずは京都」の選択肢
山内マリコさん(以下、山内) 今年3月に笹井さんのデビュー短編集『県民には買うものがある』が発売されましたね、おめでとうございます! さっそく拝読しましたが、やっぱり表題作がダントツで好きでした。
笹井都和古さん(以下、笹井) ありがとうございます!
山内 表題作は滋賀で書いていたんですか?
笹井 そうです。大学4年生のとき、体調を崩して休学していて、ずっと家にいる時期があって。そのときに『県民には買うものがある』の表題作を書きました。これまであったことを書いた、という感じです。
山内 作者の出身地でもあるし、何より主人公のバックボーンがすごく書き込まれているから、「この子は本当に“ここ”にいるんだろうな」とひりひり感じさせる小説でした。今も滋賀に住んでるんですか? それとも上京した?
笹井 実は今年3月に大阪で一人暮らしを始めたんです。東京はお金がかかるイメージがあるから、あんまり……。あと、東京と大阪に、あまり違いを感じていないです。大阪の都心部に引っ越したので、もう都会に飽き始めている部分もありますし。都会はすごく疲れる、ということに気づきましたね。
――山内さんが出身地である富山県を出たのはいつですか?
山内 18歳で富山を出て大阪の大学に進学しました。私も「東京にめっちゃ行きたい!」とは思わず、「浪人するのもイヤだから大阪でいい」という感覚で。でも、その大学周辺が自分の地元以上の田舎で、まわりは古墳だらけ。卒業と同時に東京に行く人も多かったけど、やっぱり「私はいいや」と、適度に都会な京都に移りました。3年半いて、結局物足りなくなって、25歳で上京。
――笹井さんは、京都の大学に進学されたんですよね。
笹井 本当は高校から京都に行きたかったんですけど、滋賀県内の高校に受かったので、そっちに行きました。高校で京都に出ていく子たちは、滋賀県内の高校に通っている私たちと、知っていることやしゃべる言葉が違うんです。落ち着いていて、必死さがなくて、冷めている感じというか。私もそれに憧れて、そうなりたかったんですけど、高校3年間は滋賀から出ず……。それで、大学は念願の京都に進学して、“いい感じ”になりました。
山内 いい感じ、とは(笑)?
笹井 私は美大の中の「人文学部」に通っていて、周りは美大生だけど、私の学部だけは“普通の私立文系”って感じで、茶髪のDQN(ドキュン)も結構いて。そういう私たちの学部と美術系の学部は雰囲気がまったく違って、特にグラフィックデザインを専攻している子はかわいくてオシャレでしたね。そんな学校の友達から「人文学部っぽくないな。デザイン学部っぽいやんか」って言われたら……なんかこう、「ウフフ」ってなっていましたね。「えー、そうかなあ?」みたいな。これが、“いい感じ”です(笑)。
山内 自分の属性に“ホクホク”してたんですね。
笹井 そうです。美大生じゃないけど美大に通ってる、私! って感じで、ホクホクしてしまう……。Twitterのプロフィールで現在地を「京都」にしてましたね、滋賀に住んでいるのに。でも、同じように属性にホクホクしている人が大学にはいっぱいいることにも気づいて、「うわあ……」って引いちゃって。それから、「あんまり言わんとこう」と思いました。