カルチャー
田房永子・音咲椿対談【前編】

毒親被害と「男女差」を考える――彼が切り裂きたかったのは“へその緒”だった【田房永子×音咲椿対談】

2019/06/25 15:00
安楽由紀子

音咲 別れてから10年たって、今は心の整理がだんだんついてきたんですけど、3年ほど前まではフラッシュバックする憎悪でパニックになるたび、50代の精神科医のボーイフレンドに向かって、ひどい暴言を吐いていました。精神科医だからどうにかしてくれるんじゃないかとすがる気持ちもあって。絶対、そんなことないんですけどね。それであるときにふと「自分もお義母さんと同じことしてる」と思ったんです。過去にNが「君って僕のお母さんに似てるんだよね」とニコニコして言っていたのを思い出しました。

『婚約破棄で訴えてやる!』音咲椿/ウーコミ!

田房 その言葉、めちゃくちゃ怖いね。

音咲 Nに言われて一番ショックだったのは、「ドイツで3カ月芸術の勉強したい」と言ったら、すごく怖い顔して「君は僕の奥さんになる人なのに!?」と言ったことですね。普段は「勉強したい」という私が好きだと言っていたんですよ。きれい事ばかり言ってるわりには、やっぱり縛り付けるんだと思った。彼の後ろにはお義母さんがいるんです。「そんなことしたら、うちの母がなんて言うかわからない」「そんなお金があることが母に知れたら、どう思われるか」と。私が稼いだ金で行くのに。

田房 たった3カ月でしょう? 30年行ってくるわけじゃないし。しかもまだ結婚していないカップルだし。

音咲 もともと寛容に繕ってたのかもしれないですね。結局、Nは私にも好かれたいし、お義母さんにも好かれたかった。その狭間で揺れていたのかもしれない。Nの口からどうしてこんなことになったのか直接聞きたかったけど、調停にも親子3人で来たんです。調停って、本人ひとりしか入れないにもかかわらずですよ。それでも「中に入れろ!」と調停員とモメていました。私は弁護士を立てたんですが、弁護士との話し合いにも3人で来たそうです。弁護士さんに「彼はなんて言ってました?」と聞いたら、「一言もしゃべらなかったですね。お義母さんがしゃべって終わり」と。「今後一切かかわらない」という合意書にはNの名前が書いてあったんですが、それはお義母さんが「こう書いて」と指示していたそうです。

田房 “ささやき女将”みたい。すごいね(笑)。

音咲 そう、全部お義母さんのいいなり。ただ、慰謝料の振り込みの名義人はNでした。

後編に続く・6月26日公開予定


音咲椿さんの作品『婚約破棄で訴えてやる!』は、電子書籍にてご覧いただけます。
連載中の番外編はこちら

★★★各電子書店にてお買い求めいただけます★★★

最終更新:2019/06/26 14:40
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