コラム
オンナ万引きGメン日誌
「おばあちゃんに捕まえられるの?」意地悪なクライアントに見せた、ベテラン万引きGメン熟練の技
2019/05/11 17:00
彼女は正気を取り戻したのか、逃走を断念したらしく、自転車を起こしてあげると、腰をさすりながら防災センターへの同行に応じました。身分確認をさせてもらうと彼女は56歳で、ここから自転車で10分くらいのところにあるアパートに、旦那さんと二人で暮らしていると言いました。この日の被害は、計8点、合計2,800円ほど。女の所持金は、2,000円に満たないので、被害品の全てを買い取るには少し足りない状況です。
「盗っちゃった理由、なにかありますか?」
「主人が糖尿病で足を失ってしまって……働けなくなったので、お金がないんです」
「ご自身は、お仕事されてないの?」
「はい。この歳ですし、主人の看病もあるので、なかなか見つからなくて……」
館内放送で防災センターに呼び出されたマネージャーは、応接室で涙を流す彼女の顔を見るなり、話をしようともせずにスマホを取り出して警察に通報しました。臨場した警察官に、今までの経緯を説明したマネージャーは、被害届を出すと息巻いています。
実況見分を終えて、警察署に向かうことをマネージャーに報告すると、意地悪気な顔をしたマネージャーがいいました。
「このシステムがあれば、捕まえるの、簡単でしょう?」
「実は、パスワードを入れても見れなかったので、ちょっとわからないです」
「はあ? じゃあ、なんでわかったの?」
「タイミングさえあえば、写真だけでも十分でございますよ」
そんなシステムなどなくても、十分に仕事はできるのです。
その後、微罪処分とされた女は、両足がないはずの旦那さんが歩いて現れ、その日のうちに帰宅を許されました。どんよりとした気持ちで家路についたのは、言うまでもありません。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)
最終更新:2019/05/14 16:13