コラム
オンナ万引きGメン日誌
「おばあちゃんに捕まえられるの?」意地悪なクライアントに見せた、ベテラン万引きGメン熟練の技
2019/05/11 17:00
まずは、ランチ目当ての買物客であふれる地下の食品売場を中心に、ゆるりと巡回を始めます。気持ちに左右されて頑張りすぎてしまうと、思い込みなどから誤認事故発生のリスクが高まるので、気楽に巡回するくらいがちょうどいいのです。するとまもなく、持たされている顔認証端末が発報。情報の確認をするべく、パスワードを入力してみましたが、どうにもうまく開けません。エスカレーターに近い売場の陰で、それを何度か繰り返していると、11時の女が一階から降りてくるのが見えました。いつものバッグも手にしており、今日もやる気を感じさせます。
追尾すると、果実や総菜、菓子、 消臭剤などをバッグに隠した彼女は、売場の死角に空になったカゴを放置すると、なにも買うことなくエスカレーターに乗り込みました。在店時間は、ほんの3分ほどで、なにも買っていないので、ただ盗みに来たといえる状況です。後ろ向きに乗車して後方を警戒しているところを見れば、悪いことをしている自覚はあるようですが、捕まりたくないという気持ちも強いのでしょう。素知らぬふりをしてエスカレーターに乗り込んだ私は、そそくさと外に出ていく彼女に声をかけます。
「あの、お客さ………」
捕捉時の口上を言い終える前に走り出した彼女は、出口脇に停められた自転車のカゴに隠した商品を詰めたバッグを放り込むと、自転車に跨って逃走を図りました。
「待ちなさい!」
走り出そうとする自転車を制止するべく、叫びながら咄嗟にリアキャリアを掴みます。すると、バランスを崩した彼女は転倒して、自転車の下敷きになりました。
「危ないから逃げないで! 大丈夫ですか?」
「すみません、びっくりしちゃって……」