「日能研」ならぬ「父能研」の功罪! 東大父の家庭学習が、息子の中学受験をかき乱す!?
もともと、ゆっくりではあるものの、コツコツ型である岳君には、威圧感のない環境での学習は逆に楽しかったようで、徐々にペースを掴むようになってきたそうだ。成績も段々と上がり出し、6年の秋には見事に最上位クラスに返り咲いたという。
茂さんは、当時、塾の先生から言われたことを、今でも覚えているという。
「先生にはガツンと『一生、勉強ですよね? 中学受験で親がやっちゃいけないことは、子どもを“勉強嫌い”にしてしまうことなんですよ。息子さんには息子さんのペースがあります』と言われましたね」
そして、照れ笑いを浮かべながら「一生、勉強って、私自身が教えられました。未熟なのは親の私の方でした」と、話していた。
今、岳君は難関中学に入り、生物部で頑張っている。将来はサラリーマンではなく、研究職に就きたいそうだ。茂さんは「それでいいと思います。息子の人生は息子のものなので。自分のペースでやってくれたら、それでいい」と感じているという。
中学受験は、11歳もしくは12歳の「子ども」が受ける受験である。ここに「親子の受験」と呼ばれる中学受験の落とし穴がある。子どもたちの時間軸は、大人とはまったく違う。大人になると1年は早いが、子どもの1年は実にゆっくりと流れているのだ。そうした背景から、大人が経験則によって、「今、これをやって、こうして、こうやらないといけない」という“計画”を立てる、つまり「残り何日」という計算でスケジュールを作ると、子どもが付いていけなくなる。1週間先も遠く感じられる子どもに、半年後、ましてや1年後の未来を想像しながら行動しなさいというのは、なかなか酷な話。子どもは、それができるほどの歴史を積み重ねてはいないのだ。
その道理がわからないと、親はドンドンと焦って来て、その焦りが何かも理解できない子どもを追い詰めていく危険性がある。もし、成績が思うように伸びていかない、子どもにやる気がみられないという場合は、家庭で余計なプレッシャーを与えすぎていないか、子どものペースを尊重しているかなどを、親が振り返ってみることをお勧めしたい。
中学受験は親が子に伴走しながら、合格を目指していくものではあるが、伴走者が子どもよりも遙か先を走っていては、伴に走ることにはならない。受験も含めた子育ては難しいもの。しかし、親が「親と子は別人格」「子どもには子どものペースと道がある」と自覚している受験は、その親子にとって「いい受験になっているなぁ」というのが、筆者の実感だ。
(鳥居りんこ)