「日能研」ならぬ「父能研」の功罪! 東大父の家庭学習が、息子の中学受験をかき乱す!?
そんな中、この状況に心を痛めた茂さんが「これではいかん!」と奮起し、「自分が教える!」と張り切り出したのだ。以来、茂さんは早々に仕事を切り上げ、徹底的に岳君の勉強に付き合おうとした。これを業界用語で、大手中学受験塾「日能研」にかけて、「父能研」と呼ぶのであるが、岳君のスケジュールはこうなった。
起床→直後に計算問題と漢字の書き取り→朝食→登校→帰宅→塾の宿題プリントを解く→塾(夕食はお弁当)→帰宅→茂さんと共に午後11時まで学習
茂さんは「1を聞いて10を知る」タイプだったらしく、今までの学業人生では負けたことがないと自負するほど優秀なのだが、岳君はどちらかと言えば、のんびり屋で父親のスピードにはなかなか付いてはいけなかったそうだ。ゆえに、茂さんの決めた「午後10時から算数の問2を解く」といったスケジュール通りに動けない。やっと机の前に座ったかと思っても、今度は茂さんが言うように問題を解けないのだ。茂さんはだんだんとイライラし、
「違う! 何度言ったら、わかるんだ!?」
「パパが言うように解け!」
と声を荒げることも多くなったそうだ。
中学受験は、方程式といった“数学的解法”では解かないことがほとんどなので、親が「安近短」のを教えてしまうと、塾の講義内容とドンドン乖離が生まれ、子どもがますます混乱しかねないというのは有名な話なのである。
岳君は親の期待に応えられない自分に対し、ますます自信を失い、クラスも全体の真ん中あたりまで落ちていった。
そんな時だった。心配した塾の先生が茂さんを呼び出して、こう言ったそうだ。「お父さん、このままでは岳君は勉強嫌いになってしまいますし、完全に自信を失ってしまいます。どうですか? 少し、お子さんを俯瞰で見ていただけませんか?」と。そして中学受験における問題の解き方、そのメリットなどを具体的に示してくれたという。
その塾の先生いわく、男性はロジックがわかると納得し、安心して塾に任せてくれる面があるそうで、全ての学習が塾で完結するように、岳君に自習室学習を勧め、岳君がいつでも“中学受験のプロ”に質問できる体制を作ったという。一方、反省した茂さんは「パパが悪かった」と岳君に謝り、以降、成績に関して口を挟むことをやめようと決意したそうだ。