フィギュア王者ネイサン・チェン、あらゆるオタクを掴みかねない「多幸感」と「愛おしさ」
さらに、「世界フィギュアスケート国別対抗戦」のエキシビションでアメリカ代表チームがDA PUMPの「U.S.A.」を踊ったとき。ジャニオタのよく使う、大きな顔写真うちわ的なもので各自が顔を隠しながら、縦一列に並んでグルグルとEXILE的な動きを披露して登場したが、前の人とカブってしまい、ネイサンはほとんど見えなくなってしまっていた。演技で見せるダンスはリズミカルで指先までしなやかで美しいのに、ひとたびワイルド系の動きになると、不慣れで不器用な感じという新鮮さ。まるで計算し尽されたように完璧ではないか(確実に計算じゃないのがわかるから、萌える)。
そこから一転、「U.S.A.」のノリノリ具合は軽快で、ソロパートは美しく、最後に見せたリンクに寝そべって作る人文字で漏れ出た「ウフフ」的な笑顔には、完全に射抜かれた人が多かったろう。「世界王者」という特別な人――しかも、大学に通うためにコーチと離れて一人で練習し、動画をコーチに送って指導を受け、一人で考え、コーチも帯同せずに一人来日したネイサンが、「仲間とのひとときを普通に楽しむ」姿は、いつまででも見ていられるような多幸感に溢れている。
ジャニオタは(というか、あらゆるオタクがそうだろうけれど)、「体調が悪くとも、ケガをしていても、つらい様子は見せずに自分の役割を全うすべく頑張る姿」を見ること、そして勝手に心配することが大好きだ。その点、フィギュアと勉強の両立で超多忙なネイサンは、以前もインフルエンザを患っていたし、今回の「国別対抗戦」では体調を崩し、胸やのどを押さえたり、咳をしたり、喉の痛みに耐えるためか飴を舐めたりしたため、「喉に飴が詰まらないか」とファンに心配されていた。一部では「吐いていた」「頻繁に鼻をかんでいた」とも言われている。
しかし、そんな体調でもチームを応援し、合間に勉強もし、エキシビションもちゃんと盛り上げた挙げ句、表彰式のときには明らかに体調が悪そうな虚ろな目と緩慢な動きをしている様子を見てしまったら、興味を持たずにいられるオタクなどいないのではないか。
ネイサンを知るほどに募る罪悪感
ただ一つだけネイサンの罪を挙げるとしたら、「沼」要素が多すぎるために、ファンは知れば知るほどインスタグラムや動画、Twitter、過去の雑誌なども遡って情報を集めたくなってしまい、結果的に多くの時間が奪われていくこと。
ネイサン自身はタイムマネジメントの本をたくさん読み、スケートと勉強を両立させる超多忙な日々を送っており、関西の番組で「1秒も無駄にしないでご飯を食べる時も移動中も時間があれば勉強に使います」と語っているくらいなのに、ネイサンのそうした言動を追いかけるために、ファンは膨大な時間を潰しているという矛盾……。
「自分も頑張らなきゃ」と背筋が伸びる思いと、「結果、何もしていない」罪悪感に苛まれつつ、せめてこうした時間を超多忙なネイサンにお分けできたら……と思うばかりだ。
(南山ヒロミ)