オンナ万引きGメン日誌

女はうまい棒を天にかざし、太ももに叩きつけた! たった「9円」で捕まった万引き犯の顛末

2019/04/13 16:00
澄江

試食のチョコレートをレジ袋に吸い込ませた

 大過なく前半の勤務を終えて、昼食休憩から現場に戻ると、首元がよれよれになったピンクのトレーナーに、ヘップサンダルを履いた20代後半に見える女が、お店に入ってくるのが見えました。ホームレスには見えないものの、どこか貧しげで、飢えたような雰囲気が気になります。何をしにきたのか確認するために、その行動を注視すると、女は菓子売場に設置されたチョコレートの試食コーナーの前で立ち止まりました。この店は、自社ブランドの商品を販売しているために試食提供が多く、それを目当てに来店する人たちが数多く存在しています。当日は、チョコレートを始め、ハム、チーズ、ウインナー、さつま揚げ、おせんべい、オレンジなどの試食が提供されており、お昼時にもたくさんの人たちが試食をするだけのために来店していました。各コーナーに、一人一つと明記してあるにもかかわらず大量に頬張る人も散見され、その厚かましさに呆れてしまうことも多いです。

(また、試食ちゃんかしら?)

 そう思いつつ行動を見守っていると、黒いスウェットパンツのポケットからレジ袋を取り出した女は、持ち手の片方だけを持つかたちで開口部を広げました。そして、試食のチョコレートが載せられたトレーを持ち上げると、そこにある全てをレジ袋の中に吸い込ませてしまいます。悔しいことに、無償提供される試食品を隠匿しただけでは、捕捉することはできません。しかし、このようにマナーやモラルのない人は、何をするかわからないのも事実です。そのまま目を離さないでいると、全ての試食品コーナーに立ち寄った女は、店内に設置されたビニールを駆使して試食品を隠して回りました。途中、品出しをしていた大地康雄さんに似た強面の副店長さんも、女の行動に気付いたようで、“なんとかしろよ”という感じの視線を私に送ってきています。試食巡りを終えて、菓子売場に戻ってきた女の様子を棚の陰から見守っていると、向こう側の棚の陰から同じように女の様子を覗き見ている副店長さんの姿が見えました。

(どうやって追い出してやろう)

 棚の隙間から垣間見える副店長さんの目からは、そんな気持ちが強く伝わってきます。それからまもなく、おもむろに後方を振り返った女は、1本のうまい棒を右手に取りました。そのフレーバーは、めんたい味。個人的に好きな味の一つなので、紫色のパッケージをみて、すぐにわかったのです。すると、警戒の目で周囲の様子を窺い、それを掲げるような形で天にかざした女は、それを太ももに叩きつけるようにして開封しました。


 パン!

 場にそぐわぬ破裂音を店内に鳴り響かせた女は、その場でうまい棒を一口齧ると、出口に向かって歩き始めます。目を三角にした副店長さんも、それに合わせて動きだしました。このまま店外まで出られてしまえば、声をかけるほかない状況ですが、一点検挙禁止の指令が脳裏によぎります。副店長さんに見守られる中、逃げ場を失くした私は、店の外に出た女を呼び止めました。

「あの、お客様? お店の者ですが、そちらの代金を……」
「アナタ、ナニ!? ワタシ、カンケイナイヨ!」

 口の周りをめんたい味と同じオレンジ色に染めた女は、外国人らしいイントネーションの日本語で答えると、証拠を隠滅するようにうまい棒に齧りつき、追いすがる私の制止を振り切るように歩き続けます。見かねた副店長が、うまい棒を握る女の手を取ると、大声で怒鳴りました。

「これは、タダじゃない! お金、払ってください!」
「チガウ! ヤメテ!」


うまい棒 めんたい味 (30個入り)