海外
[連載]海外ドラマの向こうガワ

『THIS IS US』5つの魅力――“ドラマ疲れ”のアメリカで、一見地味なファミリー作品が愛されたワケ

2019/04/12 21:00
堀川樹里

 このドラマは現在と過去を行き来しながら進んでいくが、そうすることではっきりと見えてくるものがある。人間は生まれた瞬間から、自分の周りにいる人間に影響を受けながら育つということ。育った環境、関わった人たちすべてがその人の未来へとつながること。そして、大人になってからわかる親の愛情、ありがたみだ。

 ジャックが子どもたちを団結させるために作った“かけ声”は、大人になった現代でもきょうだいの絆を確かめる時に使われている。プレッシャーに押しつぶされパニックに陥ったランダルの両頬を挟み、一緒に深呼吸することで落ち着かせる手法は、ジャックからケヴィンに自然に受け継がれている。ほかにもジャックが子どもたちを安心させるための仕草、言葉、一つ一つが大人になった子どもに引き継がれ、さらに次の世代にもつながっている。人は死んでもそこですべてが終わるわけではない。思い出はもちろんのこと、自分が影響を与えた人の中で生き続けることができると気づかせてくれるのだ。

魅力5)普遍的なテーマを丁寧に描いたテレビドラマの底力

 Netflix、Amazon、Huluの三大ストリーミングサービスの作品が次々エミー賞にノミネートされ、もはやテレビドラマはストリーミングサービスを無視できない時代に。そのため、両者ともに視聴者の興味を引くような刺激的で話題性の強い作品を次々と制作するようになった。しかし、ここにきて「ドラマが疲れる」と感じる視聴者が増えてきた。「内容や描写がショッキングすぎてしんどい」「選択肢は増えたが、感動を呼び起こされることはなく、印象にも残らない」というのだ。

 そんな中、『THIS IS US』はファミリードラマとして原点に戻り、脇役を含めた全キャラクターを丁寧に描き、家族、子育て、人との関わり合いという素朴なテーマを正直に描くことで、視聴者を「ほっとできるドラマ」「癒やされる」と、とりこにしたのだ。派手なシーンや刺激的なシーンはない。が、毎回小さなサプライズが用意されており、時系列がバラバラのため、謎解きのようなストーリー展開であることにハマる人が続出。ファミリードラマの枠を超えたと評されるようになった。

 現在アメリカで放送中のシーズン3は視聴者の思いもよらぬ展開になっているが、ファミリードラマという軸はぶれていない。それが人気維持の秘訣だともいわれている。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て、現在は2度目の台湾生活を満喫中。

最終更新:2019/04/12 21:00
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