「虐待かしつけか」園の指導に葛藤するママたち……一方、「声を荒げてしまう」保育士の言い分
一方で、保育士側は、自身の言動が子どもにとって「厳しすぎる」と感じることはないのだろうか。都内にある認可保育園で働いている晴美さん(仮名)は、スマホでの動画視聴などの影響により、子どもの言動に変化が見られるようになったと感じている。
「保育士として10年近く働いています。ここ数年は、スマホ育児の影響でYouTube動画を見る子が増えているからか、以前より、子どもたちの言葉遣いがおとなびてきているように感じます。昔から、大人のマネやテレビのマネをする子どもはいたのですが、最近、保育士が何かミスをすると、女児でも『バカじゃねえ』と言ってきたりするんです。何か説明すると『なんで? どうして?』と聞いてきて、『これはこうだからこうなります』と丁寧に伝えても、さらに『なんでそんなふうにする必要があるの?』って、しつこく聞いてきたり。何かやろうにも、5歳児くらいになると、保育士の揚げ足を取ってくるので、なかなか思うように進まず、イライラして声を荒げてしまうこともあります……」
年配の保育士がきつく言えば、子どももおとなしくするというが、若い保育士だと、話を聞かずに、子どもたちが騒ぎ出すこともあるそうだ。その際、つい厳しい態度を取ってしまうが、一方で、叱ることへの恐怖もあるという。
「ある若い保育士が、トイレで走っていた女児の髪の毛を引っ張ったんです。するとその子が、迎えにきた親に『先生に髪を引っ張られた』と言ったため、園長が呼び出されて謝罪する事態になりました。こういうのを見ていると、うかつに叱ったりもできないんですよ。保育園の場合は、保護者とトラブルがあると、役所や第三者機関などへの無記名投書や、区からのアンケートなどに保育士の態度を記入されるので、つい手が出そうになっても我慢しています」
家庭でも、保護者が子どもを思うばかりに、きつく叱らないケースが増えてきているのではないかと晴美さんは言う。保育士には、園生活において協調性のない子どもを注意するという仕事が増え、負担は増す一方だ。きつい言い方をしただけで、親からクレームが入るケースもあり、デリケートな対応にならざるを得ない。
保育士の厳しい対応を、虐待行為と取るか、しつけと取るかは明確な基準がないため、判断が難しい。しかし、幼児たちはまだ状況説明がきちんとできないだけに、保護者から見て、園側の注意の仕方を「不快」に感じたら、それは問題視されるべきではないかとも思う。もちろん子どもがひどく泣いた時は、しつけの範囲を越えているだろう。保護者が何か不満を抱えたとき、すぐ園側に声をかけられるような関係性を普段からを作ることこそ、大事だと感じた。
(池守りぜね)