「中学受験はバカがやるもの」公立至上主義の夫と私立エスカレーターの妻、対立が招いた悲劇
もう一つ、今度は逆の事例をお伝えしよう。夫が中学受験賛成派、妻が反対派のパターンである。夫である邦彦さん(仮名)は、国立大学の医学部を卒業し、とある大学病院の勤務医をしている。
妻の光江さん(仮名)は、まだ手のかかる幼稚園児がいるために専業主婦をしている。二人の長男である裕之君(仮名)は、父である邦彦さんに押し切られる形で中学受験に挑戦することになったそうだが、この生活が嫌だと光江さんはこぼしていた。
「主人も私も中学受験の経験がなく、私はその必要性も感じないのですが、主人は裕之をどうしても○○大学出身の医者にさせたいみたいなんです。それで、医学部に強いS学園に入らせたいそうで、そのために私への指図がすごくて閉口しています」
邦彦さんが帰宅するまでに、裕之君に問題を解かせておくこと。次週末の模試のケアレスミスを、現状の33%から20%以内に収めること。下の子(幼稚園児)は受験勉強の邪魔なので、午後7時には寝かしつけること。これらは全て光江さんの仕事だと言われたそうだ。
そのほかにも細かい指示があるようだった。試験の出来にも、子どもの体調にも波があるので、親の思う通りには何一つとしてうまくいかないことが“暮らし”なのであるが、邦彦さんにはその加減がどうにも理解できないようなのだ。
結果として、裕之君が6年生の初夏に、光江さんは子どもたちを連れて、実家に戻ってしまう。邦彦さんが裕之君に「ケアレスミスをした」ということで暴力を振るったことが、直接の原因になったという。
「中学受験は害悪でしかない」と言い切る光江さんは、現在、離婚調停中。光江さんの地元は、「『中学受験』という言葉もない地方」といい、現在公立中2年の裕之君は、高校受験に向けて、塾漬けの毎日だそうだ(裕之君は医者志望。やはり親子というものは不思議なものである)。
中学受験はあまりにも親の思いが強いと家庭の崩壊を招く “引き金”になりかねない。人生は何事もバランスが大事ということに尽きるが、もし、中学受験に踏み切ろうとしているご家庭があるのであれば、夫婦のコンセンサスの一致は不可避。
中学受験は夫婦が同じ方向を向きながら、時には片方が鼓舞し、片方がなだめる。そんな具合に、絶妙なコンビネーションで子どもを支えなければならない“一家の一大イベント”なのだということは申し上げておきたい。
(鳥居りんこ)