『少女まんがは吸血鬼でできている』レビュー:中世への憧れとBL的世界が詰まった“吸血鬼ジャンル”を徹底分析
――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。
■『少女まんがは吸血鬼でできている 古典バンパイア・コミックガイド』(中野純・大井夏代、方丈社)
■概要
私設図書館「少女まんが館」共同館主である中野純・大井夏代夫妻による、「吸血鬼ジャンル」に特化した少女まんがガイドブック。名作吸血鬼まんが『ポーの一族』(萩尾望都、小学館)をはじめとした1950~70年代の古典少女まんがを中心に、終戦直後の少女雑誌の「よみもの」から現代の人気作まで総ざらいし、吸血鬼ジャンルの特有の魅力を徹底的に紹介してくれる1冊。ほぼすべての作品がカラー画像で収録されている。
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女子高校生と神秘的な雰囲気をまとった美形ヴァンパイアの恋を描いた映画『トワイライト』シリーズが、アメリカを中心に爆発的ヒット作となったのは約10年前。この作品を見た人々の中で、日本の少女まんがに親しんできた人の多くが思ったであろう、「なんか……少女まんがっぽい!!」。本格的なバトルシーンなど独自の魅力を備えている作品だが、その設定やキャラクターの雰囲気に、過去に親しんだ華やかな空気を感覚的に嗅ぎ取った人は多いのではないだろうか。
そんな感覚に最も熱く共感してくれるのが、中野純・大井夏代夫妻かもしれない。少女まんが研究家であり、「少女まんが館」を運営する2人が著した『少女まんがは吸血鬼でできている』は、タイトル通り、少女まんがの“定番”である「吸血鬼モノ」を収集し、ほぼすべての作品にカラー写真と丁寧なレビューを添えた完全ガイドブックだ。
『リボンの騎士』(手塚治虫、講談社)や『ベルサイユのばら』(池田理代子、集英社)、『キャンディ・キャンディ』(水木杏子・原作、いがらしゆみこ・画、講談社)が少女まんが界の「健全な名作」として君臨するなら、吸血鬼モノは少女まんがの「不健全な名作」として、「実は少女まんがの黄金時代を築いてきた陰の立役者」ではないかという考察のもと、吸血鬼まんがの歴史をひもといていく。
人気シリーズものである『ポーの一族』、『夢の碑(いしぶみ)』(木原敏江、小学館)、『最終戦争』シリーズ(山田ミネコ、白泉社ほか)などの長編については、1シリーズごとにレビューと考察を加え、それぞれの作品がその後にどのような影響を与えたかを解説する。
さらに、「少女まんがに吸血鬼が初めて登場した作品かもしれない」という横山光輝の『紅こうもり』。そこから始まる50~70年代の作品群については、雑誌掲載の読み切り作品や、『ガラスの仮面』(美内すずえ、白泉社)の「カーミラの肖像」などの作中作に至るまで徹底的に押さえられ、80年代以降も『ときめきトゥナイト』(池野恋、集英社)や『トランシルヴァニア・アップル』(樹なつみ、白泉社)、さらには『黒薔薇アリス』(水城せとな、秋田書店)といった近年の作品まで、代表的な作品が取り上げられている。
膨大な作品リストに圧倒されるが、間に差し挟まれる著者によるコラムによって、さらに吸血鬼まんがへの理解が深まる。ホラーにも純愛ものにもなり、少女が憧れる中世ヨーロッパの雰囲気をたたえ、適度に性行為を連想させる吸血行為や絶対的な弱点によってドラマが作りやすく、BL的世界観とも合致――。そんな数多くの要素が絡み合って、少女たちに熱狂的に受け入れられる奥深いジャンルとなり得たことがわかる。
さらには、少年まんがにおける吸血鬼モノとの比較、少女まんが誌の前身ともいえる20~40年代の少女雑誌の「よみもの」として掲載されていた吸血鬼譚など、周辺ジャンルまで幅広く押さえ解説している。少女まんが好きはもちろん、そうでなくても十分に楽しめる充実の内容だ。
(保田夏子)