「あの人、見覚えがある……」万引きGメンが捕まえた熟年女性、その正体にスーパーの社長も絶句
「万引きです……」
事務所に到着して、被疑者である熟年女性を社長に引き渡すと、社長の口から思わぬ言葉が飛び出しました。
「あれ、おかみさんじゃねえか。おいおい、ウソだろ? 冗談だよな?」
「お知り合いなんですか?」
「この人、目の前にある中華屋の奥さんだよ」
「ああ、あそこの……」
どこかで見かけた理由が判明して、少しスッキリしましたが、社長の怒りは徐々に大きくなっていきます。
「おかみさん、一体どういうつもりなんだよ。いままでに、何度もやってんだろう? 毎日のように通って、毎年の新年会と忘年会でも使っているのに、これはあんまりじゃねえか?」
「社長さん、ごめんなさい! もうしないし、これも買わせてもらいますから、勘弁してもらえませんか?」
「そんな簡単に許せるわけねえだろ。この油、店で使うんだろ? 親父さんも知ってるのか?」
「はい。でも、私が勝手にやったことです。お願いですから、主人には言わないでください! 離婚されちゃう……」
お店で使うために万引きしたと白状したおかみさんは、その場に土下座すると、床に顔つけるようにして体を丸めて泣き始めました。それを見た社長は、フンと鼻で笑うと、その場で電話をかけ始めます。
「毎度、スーパーMです。親父さん、ランチ終わったろ? おかみさんのことで、ちょっと大事な話があるんだ。いますぐ店の事務所に顔出してくれねえかな……」
すぐに駆け付けてきた親父さんは、床にうずくまるおかみさんの姿を見て狼狽すると、まるで状況が呑み込めていない様子で言いました。
「おまえ、どうした?」
「あんた、ごめんなさい! 許して!」
その後、警察を呼ばないことを条件に、過去の犯行も告白したおかみさんは、いままでに何度も、油や米、調味料などを盗み出していたことを認めました。その理由は、お店の経費を浮かすため。おかみさんの犯歴を聞く親父さんの顔は、この上なく痛々しく、見ていてとてもつらかったです。結局、いままでの分を含めた形で被害弁償することで示談した社長は、警察を呼ぶことなく2人を解放しました。示談金の額は、15万円。この額面が多いか少ないかはわかりませんが、利害関係人が納得しているので、きっと妥当な額なのでしょう。
それからだいぶ後ですが、件の夫婦が営む例の中華料理屋でランチをとってきました。お世辞にもはやっているとはいえないものの、その様子に特別な変化はなく、いまもご夫婦で営業されておられましたよ。チャーハンをいただきながら、以前と変わらないおかみさんを見て、離婚されなくてよかったねと、心の中でつぶやきました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)