男性の官能小説家は意外にエロくない!? 業界をチラ見できる『人妻と官能小説家と……』
官能小説家という職業を持つ方々は、意外と多く存在する。しかし「専業作家」として活動している方はごく一握りである。女流作家の場合は、結婚をして作家活動に専念できる方もいらっしゃるが、男性作家の場合だと、正社員で働くかたわらでこっそり作家活動をしていたり、アルバイトと兼業して生計を立てている方が多い。
また、意外、といっては失礼かもしれないが、男性の官能小説家は「エロいもの」を書いているからといって、実際に女性に対して下ネタを言ったり下品な対応をする人は今まで1人も出会ったことがない。誰もが女性に対して紳士的で、女性を立ててくれる品のある男性がとても多いのだ。対して女流官能小説家は、「官能小説家」という肩書が芸能活動などに使えると見越して書いている方もいるという。
今回ご紹介する『人妻と官能小説家と……』(二見書房)は、そんな官能小説業界の裏側をリアルに描いた人妻モノの作品である。
主人公の郁男はロリータものを得意としている官能小説家。しかし、彼が定期的に本を刊行している出版社の担当編集から「もううちではロリータものを出さない」と言われ、代わりに今後は人妻ものを書いてほしいと言われてしまう。女性経験がなく、しかも今までロリータものを得意としてきた郁男が、真逆の題材に挑戦しなければならなくなってしまった――思い悩んだ郁男は、官能小説家が集まるパーティで、先輩作家や編集者などに相談するのだが……。
女流作家、編集者、元同僚など、あらゆる女性と身体を交わす郁男。童貞である彼のおぼつかないセックス描写はとても愛らしく、読んでいて微笑ましく感じる。
また、本作の見どころのひとつが、登場人物のリアルな点である。官能小説業界をご存じの方であれば、本作を読めば登場人物のモデルが誰であるのかが想像つくはずだ。また、郁男が同業者の面々のことや官能小説業界のことをどう考えているのかを読み進めていると、業界の裏側を知ることができて、ついニンマリしてしまう。小説としての面白さと合わせて、官能小説の業界をチラ見することができる稀有な作品である。
(いしいのりえ)