歌舞伎町の元風俗嬢が語る、愛しき“ホス狂い”たち――「滑稽だけど大真面目」な素顔
「エースっていうのはやっぱり何百万も1カ月でお金を使うんですか? どうやってお金を作ってくるんでしょうか」
女性はメディアに出てくるような「エース」が実在しているのかが気になっているようだった。
私の記憶の中で印象深かった「エース」たち。実家のグランドピアノを両親がいない間に売り払って勘当されたエース。親が帰ってきた瞬間にバレた、と言っていたが当たり前である。毎日朝から朝まで歌舞伎町のデリヘルで働いて、仕事の合間にホストクラブにお金を使いに行くエース。仕事途中でお酒を飲むので、深夜からは酔った状態でお客のもとにデリバリーされていた。酔うとキス魔になる女の子だった。お客さんはむしろ喜んでいたのだろう。指名が増えたことは幸いである。キス魔の彼女は「お札を使うのは担当ホスト君にだけ」と決めていて、コンビニですら小銭だけで買い物をしていた。やむなく1000円札を使うときは、真剣に、真面目に苦悶していた。
こんなエピソードを語り始めたらキリがない。彼女たちは皆、月に何百万円も使うエースたちで、風俗や愛人家業でお金を稼いでいた。
「やっぱりホス狂いって面白いですね。」
知らない人から面白いと言われるのは若干複雑な気持ちではある。しかしおっしゃる通りで言葉にするとなかなかに滑稽な光景。馬鹿みたいな話である。でも、私も含め彼女たちには彼女たち――「ホス狂い」の中でのルールや論理があって、それぞれ大真面目に「ホス狂い」をやっていた。
結果だけ見れば愚行奇行だが、その気持ちは本物である。たぶん。だからこそ、ときたま奇行に走りながら彼女たちは今日もホストクラブの戸を叩くのだ。実際のホストクラブで戸を叩いて入店のお伺いを立てていたら、それこそ奇行ではあるが。そういったことも含めて考えると、結論としてホス狂いはやっぱり「面白い」のかもしれない。
その後、何度か女性とはバーで話す機会があり、今回執筆の機会をいただくに至った。
ところで、いま現在、私はホストクラブで1本1000円の発泡酒を飲みながらこの原稿を書いている。ちなみに締め切りは3日前だ。つい先ほど担当編集から年始のご挨拶メールが届いた。1月10日である。ホストとホス狂いについては、書くことがいくらでもありすぎて、なかなかまとめるのが大変なのだ。
ホストクラブは楽しい。そしてホス狂いも楽しい。20代の半分以上を歌舞伎町の家と、歌舞伎町の職場と、歌舞伎町のホストクラブのトライアングルからほぼ出ずに暮らした私が言うんだから信じてくれ。哀しいけれど面白い、そんな私の愛しいホス狂いたちの話を書いていく。お付き合いいただければ幸いである。
せりな
新宿・歌舞伎町の元風俗嬢ライター。『マツコが日本の風俗を紐解く』(日本テレビ系)で、 現役時代のプレイ動画を「徹底した商業主義に支配された風俗嬢」 と勝手に流されたが、 ホストに貢いでいたのであながち間違いではない。その他、デリヘル経営に携わるなど、業界では知られた存在。 現在も夜な夜な歌舞伎町の飲み屋に出没している。
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