中学受験の本番直前、母を襲う極度の“不安”――「自分は狂ってる」と吐露した悩みとは?
“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
今年も各地で中学受験の本番がスタートした。2月1日に受験解禁になる東京・神奈川の私立中学の受験生家族は、まさに今、右往左往しているであろう。
「人事を尽くして天命を待つ」というように、「できる限りのことをしたのだから、その結果は天の意思に任せよう」と、どっしり構えていられれば最高なのだが、現実はそうはいかない。もうなすがままに身を任せるしかないとは頭では理解しているつもりでも、心配しすぎで足掻いてしまうのが親心。中学受験とはそういうものなのだ。
この心配は「合格しなかったらどうしよう?」ということに尽きる。しかも、その心配が高じて、些細なことまでもが、さまざまな“不安”となって、母の心をかき乱すのだ。
東日本大震災の数年後、筆者は貴也君(仮名)という男の子の母・聖子さん(仮名)から、相談を受けたことがある。貴也君は、全国でもトップレベルの偏差値をキープしたまま、受験本番週を迎えた。模試の結果によると、志望校は余裕で合格圏内、塾もお墨付きを与え、何より、受験するご本人様が“やる気満々”。死角はどこにもないと誰もが確信していたのだ。
しかし、聖子さんだけが人知れず“不安”と戦っていた。受験本番数日前、彼女から筆者の元にメールが届いたのだが、その内容はこうだった。
「もし、受験本番の日に大地震が起こったら、息子はどうすれば良いのでしょうか?」
「なぜそんなことを?」と思わずにはいられないが、彼女は真剣に悩んでいたのだ。参考までに記すと、筆者は「大地震があったら、入試は延期になる。受験生全員が等しい条件で受けられないのだから、心配いらない」と答えた。
筆者はつくづく、母という生き物は、悩みがなさそうな人であっても、わざわざ自ら“悩み”を生み出してしまうものなのだなと実感したのである(結果、貴也君は、余裕で最難関校を総なめにした)。