『アンナチュラル』『宇宙を駆けるよだか』……2018年ドラマ名シーンベスト3を選出
『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)は、天空不動産という会社に務める33歳の春田創一(田中圭)が、ある日、部長・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)と、ルームシェア中の後輩・牧凌太(林遣都)から告白され、三角関係に思い悩む物語だ。漫画では定番化しているBL(ボーイズラブ)の構造を持ち込むことで、新しい恋愛ドラマに仕上がっていた。
個人的に面白かったのは黒澤部長の描写。吉田鋼太郎の演技もあってか、チャーミングなおじさんの一面も見えるのだが、一方で、春田への振る舞いは、上司という立場で部下に交際を迫るパワハラではないか? という批判も多かった。確かに仕事中に春田を盗撮したり、仕事にかこつけて会おうとする行為は職権乱用で、もしも男性上司が女性社員に同じことをやったら、もっとグロテスクに感じていただろう。おそらく、作り手サイドもそこは自覚していたのではないかと思う。
第4話で部長の告白に対して春田が断る場面は、その回答に見えた。
「ごめんなさい」と謝る春田に対して「駄目なのは俺が上司だから? それとも男だから?」と尋ねる部長。この台詞だけでもすごいのだが、春田の「理想の上司だと心から思ってます」と言った後で、でも、この気持ちは「恋愛感情じゃないんです」と言い、「純粋な上司と部長の関係に戻りたいんです」と伝えるのが素晴らしい。優柔不断な春田が、彼なりに一生懸命考えて、誠実に答えたのが見ていて伝わってくる。
春田の言葉を聞いて、自分がパワハラに等しいことをして、春田を困らせていたことに気づいた部長は毅然とした態度に戻り、春田の元から去っていく。遠くに見えるネオン街の光が割れたハートになっている芸の細かさも含めて、名シーンである。この後、物語は二転三転するのだが、この場面があったことで『おっさんずラブ』に対する信頼が、自分の中で高まった。
3位 『宇宙を駆けるよだか』第1話
『宇宙を駆けるよだか』(Netflix)は、容姿の美醜という題材を扱っているため、見ていて苦しい。そのため、視聴を続けるか最初は迷うのだが、あるシーンを見て、このドラマは「大丈夫」だと思った。
物語は容姿がかわいくて明るい女子高生・小日向あゆみ(清原果耶)が、幼馴染で彼氏の水本公史郎(神山智洋 ジャニーズWEST)と初デートをしている時に、クラスメイトの、太っていて陰気な女子高生・海根然子(富田望生)が飛び降り自殺するところを目撃してしまうところからはじまる。飛び降りを目撃したことで、なぜか、海根と容姿が入れ替わってしまったあゆみ。そのことを誰にも信じてもらえず、あゆみは学校でどんどん孤立していくのだが、もう一人の幼馴染・火賀俊平(ジャニーズWEST・重岡大毅)だけは、あゆみだと気づいてくれる。
あゆみの絶望が伝わってきて、序盤はとても苦しいのだが、30分前後から始まる火賀とのやりとりと「どんな姿しててもわかるよ。あゆみは、あゆみなんやから」という言葉に救われる。重岡の話す気さくな関西弁はとても心地よく、劇中の役割を超えて「彼がいるなら安心できる」という気持ちにさせてくれた。
名シーンはクライマックスには生まれない
これら名シーンは、それぞれのドラマにおける大きな転換点に配置されている。劇場で結末まで見終わる映画と違い、連続ドラマは複数の話を見せて、最後まで完走させないといけない。『宇宙を駆けるよだか』のようなハードな作品は特にそうだが、視聴者は不安を抱えながら見ているため、早く「このドラマは見ても大丈夫」という確信が欲しい。そんな中で、作り手の「大丈夫」というサインが成功すると、今までの不安は安心と信頼へと変わる。だからこそ、ドラマの名シーンはクライマックスではなく、転換点に生まれるのだ。