万引きGメンの私が怒りで震えた――「摂食障害」主張するオンナの“階段での挑発”と“弁明”
こんにちは、保安員の澄江です。
元マラソン選手の原裕美子元被告が、窃盗の罪に問われた裁判で、注目を集めることとなった窃盗症(クレプトマニア)。彼女の窃盗症の背景には摂食障害があると言っていましたが、私自身、摂食障害を主張する万引き常習犯を捕捉した経験が多数あります。その中には、非常に悪質な犯行もあって、過去には威嚇行為を受けた事案もありました。
あれは、昨春のことでした。その日の現場である都内の大型ショッピングモールに入ってまもなく、地下1階の食品売場で20代らしき痩せこけた女を発見した私は、彼女の両肩にかかる大きなトートバッグが気になりました。
(やっぱり……)
その行動を見守れば、弁当や惣菜、パンをはじめ、健康食品、ヨーグルト、高級チーズなどの商品を、店員さんやほかのお客さんとのすれ違いざまに隠す手口で次々とバッグに隠していきます。時間で言えば10分足らずで、2つのトートバッグをパンパンに膨らませた女は、なにひとつ買うことなく人気のない階段室に向かって行きます。多少の距離を取って階段室に入り、恐る恐る上方を見上げると、予想外の出来事が起こりました。手すり越しに身を乗り出して、後方を警戒していた女と、目が合ってしまったのです。一瞬にして私の正体を察知したらしい女は、敵意剥き出しといった表情で階段を駆け下りてくると、トートバッグに隠した全ての商品を階下に設置されたカゴの中にぶちまけて言いました。
「やっぱり、買うのやーめた」
人を小馬鹿にした言い方で、私に聞こえるように囁いた女は、素早く踵を返すと階段を駆け上っていきました。パンや弁当などは、形が崩れてしまって商品にならない状態になっており、それを理由に声をかけることも不可能なことではありません。しかし、この店の内規に従えば、それはイレギュラーなこと。悔しさや怒りで震える体を落ち着かせながら、女の背中を見送った私は、女がぶちまけた商品をバックヤードに持っていき、居合わせたマネージャーに報告しました。人着(犯人の人相や着衣)を聞いたマネージャーは、女に心あたりがあるようで、手慣れた様子で防犯カメラの映像を検証しています。それからまもなく、防犯カメラのモニターに映る女の姿を見つけたマネージャーは、私の同意が得られると、納得した様子で語り始めました。
「この人、ウチで一番の常習者です。前に捕まえた時は逮捕されて、病院から謝罪の手紙まで送ってきたのに、またやってるのか……」