万引き番組の“ヤラセ疑惑”をGメンが解説! 「犯人は演技している」の意味とは……?
――Gメンに向いている人向いていない人っていますか?
伊東 Gメンには2種類のタイプがいて、その両方を兼ね備えたハイブリッドもいます。店内を歩き回れる体力があり、気配を消し、偶然品物をカバンの中に入れるのを見つけるタイプ。次に、店に入ってきた瞬間から「あっ、この人やるな」と察知し、不審者の心の動きを読めるタイプ。本来はその両方を兼ね備えたハイブリッドが一番いいですね。あと、男女差は、勇気と体力、それに溶け込み度の違いはありますね。 性別による現場の向き不向きはあっても、能力差はないでしょう。
元警察官の方は、Gメンに向かないです。気配が出ちゃいますし、彼らの仕事は捕まえた後がほとんどなんで、あまり経験を生かせません。就職してもやめてしまいますね。Gメンに向いているというと、元スーパーの店長とかですかね。あと、私の相棒なんですけど、元はパチンコホールの店長なんですよ。店長の仕事はゴト師(※不正にパチンコ台やスロット台を操作して利益を得る人物)の摘発。モニター越しに「あ、こいつやるぞ」と、ゴト師を見つけて、捕まえる。あとは私もそうなんですが、金融業者は多いですね。なんというか、一連の仕事が似てるんですよ。人を追い込むという点で。
――万引きGメンが人を追い込むというのは想像しにくいですが。
伊東 盗るのを見守って、金を払わずに外に出るまで追いつめ、犯罪を成立させる。それは、結果として、「犯人に仕立て上げている」とも言えるんですよ。目の前で犯罪を行わせるわけですから。金融で言えば「金利少し高いけどお金貸しますよ」という部分ですね。その先は万引きの場合「警察を呼びます」だけど、金融は「返さないなら給料や不動産差し押さえますよ」となる。追い込んだ結果として、相手は「お金払います」って言うことになるのも共通しているなと。
万引きをしようとしている人の前に姿を見せ、盗るのをやめさせればいいものを、盗らせてから捕まえるわけじゃないですか。ずるい仕事だとは思いますね。ぶっちゃけ、恥ずかしいときもありますよ、自分でやってて。
――万引きGメンをテレビでご覧になっている視聴者は、皆さんの行動を見て溜飲を下げたりしている人もいるとは思います。
伊東 Gメンはいかに騒動を起こすかっていう仕事なんですが、違和感は覚えますね。Gメンやお店の人が、まさに万引きしている人のところに行って、「ダメですよ」といえば、大抵の人は商品を出すはず。今は全国で少しずつ、そういった店内での声かけ運動も始まってるんですよ。あと、万引きをやらせるというか、犯罪者を生み出すお店じゃダメだよなという思いはあります。なるべく、万引きできないようなお店を作るのも大事なのではないでしょうか。
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伊東さんはGメンの仕事をこなしつつも、「犯罪者に仕立てあげる」というその特殊な取り締まり方法に悩んでもいる。また万引きをさせない店づくりやシステムの構築に向けて、日々全国の警察組織や有識者ヒアリング、講演会活動を行っているそうだ。皆さんもテレビで万引きGメン特集をご覧になる際、少し本記事の伊東さんの言葉を思い出してみてほしい。
伊東ゆう(いとう・ゆう)
1971年、東京生まれ。 フリーライター、万引き対策専門家、万引きGメン。1999年より5000人以上の万引き犯を捕捉してきた経験を持つ現役保安員。『万引きGメンは見た!』(2011、河出書房新社)『万引き老人』(16、双葉社)を上梓すると大きな話題を呼び、『実録!犯罪列島シリーズ』『ジョブチューン~アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』(ともにTBS系)をはじめとする多数の番組で特集された。現役保安員として活躍する一方、講演活動とメディア出演による「店内声かけ」の普及に努め、「万引きさせない環境作り」に情熱を傾ける。
現在、香川大学教育学部特別講師、香川県万引き対策協議会メンバー、北海道万引き防止ウィーブネットワークアドバイザー、岩手県万引防止対策協議会講師、ジーワンセキュリティサービス株式会社取締役会長。