高橋一生、『僕らは奇跡でできている』が初主演作として“ある意味”成功といえる理由
主演を演じることは、高橋の武器を封じることになる。同じように、『カルテット』に出演して人気が爆発した吉岡里帆は、主演女優にステップアップしたが、どの作品も苦戦している。脇役で目立った俳優が主演に転じることはチャンスであると同時に、今までのキャリアを台無しにしかねない危険な賭けなのだ。
今の高橋には演技力に裏付けされた確固たるキャリアがある。だったら、脇に徹した方がいいのではないかと思っていたが、そんな中、主演ドラマ『僕らは奇跡でできている』(フジテレビ系)が始まった。
本作で高橋が演じるのは、大学で動物行動学を教える相河一輝。動物のこととなると我を忘れてしまう変人で、好き勝手に行動しては周囲を振り回す。しかし、そんな相河の純粋さに、周囲はだんだん感化されていく。脚本は、ヒューマンドラマ『僕が生きる道』(同)等の「僕シリーズ」で知られる橋部敦子だが、感動的なトーンは若干控えめで、相河という、かわいいおじさんの姿を見て楽しむコメディテイストの方が強い。
平均視聴率は初回7.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)で、それ以降も6%台と苦戦していて、主演としては厳しい評価となりそうだが、相河という役柄が高橋のイメージとうまくマッチしているので、見ていてつらくなることはない。
一方で、吉岡の主演作がつらいのは、真面目で純粋な女性といった単調な役柄ばかりで、脇役時代に魅力的だった複雑で繊細な内面を表現する姿が封じられているからだ。同じように、現在『忘却のサチコ』(テレビ東京系)に出演している高畑充希は脇役から主役へと移行し成功したが、それと引き換えに脇役時に魅力だった演技の繊細さを失いつつある。
しかし、高橋は主演になっても“高橋一生”のままである。性別や年齢の違いもあるだろうが、主演だからといってイメージと違う役に起用されなかったのは救いである。残念ながら本作は、面白いけど視聴率が追いつかなかった作品という評価になると思う。しかし、高橋自身のキャリアは傷つかないだろう。ブランドイメージを守るという意味においては成功作だ。
(成馬零一)