コラム
【連載】オンナ万引きGメン日誌

同棲中の彼氏からDV……顔を腫らしたオンナ万引き犯、Gメンが絶句した「逮捕後の真実」

2018/10/27 16:00

 およそ1時間に渡って犯行を繰り返した彼女は、もはや隠すスペースもないほどまでに、盗んだ商品で3つのバッグをパンパンに膨らませました。隠した商品が重いのか、犯行開始時とは違って、かなりゆっくりとした歩様で出口に向かって歩いてくれたので、足の遅い私にとっては有利な状況となりました。気付かれることのないまま背後につき、彼女が店外に出たところで声をかけます。

「こんにちは、お店の者です。そのバッグに入れたモノ、お金払わないとダメですよ」
「す、すみません……」

 顔に似合わぬかすれ声で素直に犯行を認め、事務所への同行にも従ってくれた彼女に、お決まりの質問をぶつけてみます。

「今日は、どうしたの? こんなにたくさん」
「実は一緒に住んでいた彼氏とケンカして、家を出されちゃったんです。新しい部屋の契約をしたら、お金がなくなっちゃって……」
「そのケガは、その時のケンカで?」
「はい。もう体中、痣だらけなんです。首も締められたから、声が出なくて……」

 よく見れば、首にも締められたような痣があり、呼吸をするのも苦しそうな感じです。病院に行ったのか尋ねると、行きたいけど警察に通報されると困るので行けなかったと答えました。どうやら何か深い事情があるようです。

 事務所に到着して身分の確認をさせてもらうと、彼女は28歳のフリーターで、お金がなくなると風俗店で働いていると話しました。盗んだ商品は48点に上り、被害総額は7万円を超えています。たとえ初犯であっても、警察に通報されれば逮捕されるレベルの犯行といえるでしょう。商品を出させる際、テーブルに置かれた彼女のスマートフォンに目をやると、彼女と恋人らしい男が仲良く顔を寄せ合う待ち受け画面が目に入りました。ここまでされても、まだ未練があるようです。

 まもなく警察に引き渡された彼女は、前科はないものの窃取量が多いことから、やはり逮捕となりました。もちろん逮捕者である私も警察署に同行を求められます。しかし、4時間ほど刑事課の前にある長椅子に待機させられただけで、調書を巻くことのないまま帰宅を許される展開になりました。

「逮捕者から調書を取らないなんて初めてなんですけど、何かあったんですか?」
「実は、ちょっと前まで犯人と暮らしていた男が、今朝覚せい剤の所持で逮捕されていまして……。女の方も検査したところ、覚せい剤使用の陽性反応が出たので、そちらでやることにしました。万引きの件も事実として調書に残しますので、今日はお帰りいただいて大丈夫です」

 ひどい怪我をさせられながらも、病院や警察に行かなかった理由は、これだったのです。盗んだ商品で新生活を彩ろうという、理解しがたい行動に出たのも、覚せい剤の影響下だったからかもしれません。いずれにせよ同情の余地はなく、ダメな男に振り回されてしまった女の悲惨な末路に、どこか釈然としない気持ちになりました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

最終更新:2018/10/27 16:00
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