カルチャー
精神保健福祉士/社会福祉士・斉藤章佳さん×ライター・姫野桂さん対談(前編)

「万引き依存症」と「発達障害」の生きづらさとは? ひとごとではない問題の実態

2018/10/18 15:00

ライターの姫野桂さん

姫野 斉藤先生のご著書を読み、万引き依存症に陥るのは男性よりも女性のほうが多いというのがちょっと衝撃でした。

斉藤 何らかの生きづらさから万引き依存症になる人は、特に女性の場合、タイプが決まっていて、幼少期から万引きとは全く無縁だった人です。性格としては意志と責任感が非常に強くて、他人の評価を常に気にしており、他人にすごく気を使う人。こういう特性の人が、ことごとく万引きに耽溺しています。依存症とは一般的に「だらしない」「意志が弱い」といった性格が原因と思われがちですが、実際はむしろ真逆なのです。

姫野 こわい。なんだかひとごとに聞こえません。

斉藤 姫野さんの“こわい”という感覚は、ある意味、間違っていないですよ。ライフサイクルの中で何らかの出来事(挫折や喪失体験、孤立など)をきっかけに、誰もがハマりかねないということ。万引きを始める背景として多いのは、ワンオペ育児、仕事と家事の両立、夫婦間トラブル、介護、夫の死、軽度の認知症など。例えば、職場・自宅・スーパーの3つの世界が生活の中心になると、ビジネスパーソンや母親・妻としての責任を負わなくていいスーパーは、自分自身の役割から降りられる唯一の場所になるみたいです。最も自由度が高い場所です。そこでちょっとした達成感や解放感を味わえたり、悪い自分でいられる瞬間を求めて万引きする。

姫野 悪い自分でいられるのが、気持ちいいだなんて……。ほんの軽い気持ちから常習化した状態が、万引き依存症ということですよね。

斉藤 ええ。年齢で見ると、万引き依存症で圧倒的に多いのは65歳以上。ただ先ほど申し上げた通り、ライフステージの節目ごとに万引き依存症になるリスクが、女性にはあるということです。

姫野 先日、キャリアカウンセラーと話をしていたときに、「男性に比べて女性は変化に柔軟」と、その方は言っていました。そして今の先生のお話を伺って思ったのは、次々に直面するライフステージの変化を乗り越えられなかった場合に、万引き依存症に陥るのではないかということです。

斉藤 特にこれからの日本社会は高齢化が進みますので、認知症の患者も今以上に顕在化するでしょう。高齢男性の依存症で圧倒的に多いのはアルコールですし、女性の場合は万引きとなりますと、先が思いやられます。話は変わりますが、昔に比べて今のほうが発達障害の事例がメディアで取り上げられることが増えたように思います。実際、理解は深まっているのでしょうか?

姫野 そうですね……。認知度は上がっていますし、理解しようという方向に社会が動き始めている段階です。ただ、2004年に制定された発達障害者支援法は“企業は発達障害者に理解を示さなければいけない”という内容なのですが、実際に理解している企業は、はたしてどれほどあるのかと思うことが多々あります。周囲の話を聞いていても、追いついていない会社は少なくない印象です。

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