ロボットデリヘル炎上――「しゃべらない」「モノ化する」風俗嬢の危険性を、当事者視点で考察
要氏は、「しゃべらない」というコンセプトが問題視された点についても、違和感を覚えたという。
「ロボットデリヘルの『しゃべらない』という設定が危険だといわれていますが、お客さんと言語的コミュニケーションが取れる風俗店でも、大きなケガをしたり、病気になるセックスワーカーはいます。逆に『言語的コミュニケーションさえ取れればいいんだ』となりかねませんし、そういった考え方は、風俗全般におけるセキュリティマネージメントの観点からすると、現実的ではない。それに、その場では受け入れられたお客さんの行為でも、事後に『あれは嫌だったな』と明確になってくる被害の意識もあります。言語的な意思疎通があろうがなかろうが、こうした“揺り戻し”が起こることもあるんです。『ロボットという設定だからセックスワーカーの苦痛が大きい』というのは視野が狭い考え方なのではないでしょうか」
「しゃべれれば問題ない」という言語的コミュニケーションの過信は、セックスワーカーの“揺り戻し”問題を「不可視化しないか」と、要氏は疑問視しているそうだ。
「また、『あれはダメ』『これはダメ』と言葉にして伝えると、お客さんの満足を得られず、リピーターを増やせなくなり、結果的に稼げなくなってしまう問題も出てきます。そうならないためにも、セックスワーカーには、自ら主導権を握り、自分の身を守りつつ、お客さんに代替的な提案をできるスキルが必要になってくるわけですが、やはり、セックスワークにおける言語的コミュニケーションには限界を感じますね」
要氏の話からわかってきた、セックスワーカーに求められるスキルの数々。ロボットデリヘルで働く女性たちは、「マテリアルになるわけですが、マテリアルになるのにも、情報や知識が必要」と要氏は語る。
「ロボットデリヘルに批判が出たのは、ロボットには意思や主体性が伴っていないように見えることから、“女性が性的搾取されている”と受け取られたのではないでしょうか。じゃあ、ロボットのようではない、意思や主体性が伴ったように見えるサービス・労働であればいいのかというと、それはどうなんでしょう。逆に、あたかも意思や主体性が伴っていますよというふうに、ニコニコ笑ってイキイキ働かなければいけないなんて、それこそストレスが溜まりますよ。セックスワーカーにもそういったストレスを強いるのか? と、私は思ってしまいましたね。人の思い通りに動かないロボットだってあるし、それでもいいじゃないですか」
そういう意味でも、ロボットデリヘルをめぐる議論は、「非当事者枠組みの議論のステレオタイプな面も浮き彫りにしていると思う」という要氏。セックスワークに関する問題を考える際、“実際に働く人はどう思っているのか”という視点がいかに重要かを実感させられた。
要友紀子(かなめ・ゆきこ)
1976年⽣まれ。99年から、セックスワーカーが安全・健康に働けることを⽬指して活動するグループ「SWASH」で活動。『セックスワーク・スタディーズ』(SWASH編、日本評論社、2018)ほか著書多数。
SWASH公式サイト