詩から遠くにいる人に、劇作家・鴻上尚史が谷川作品を案内してくれる『そんなとき隣に詩がいます』
――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。
■『そんなとき隣に詩がいます 鴻上尚史が選ぶ谷川俊太郎の詩』(谷川俊太郎・鴻上尚史、大和書房)
■概要
人生に行き詰まってしまったときや疲れたとき、力になってくれる谷川俊太郎の詩を、1952年に出版された『二十億光年の孤独』から2018年の『こんにちは』に収録されている3,000編以上の中から劇作家・鴻上尚史がセレクトし、エッセイを添える。「さみしくてたまらなくなったら」「愛されなかったら」「愛されたら」「大切な人をなくしたら」「家族に疲れたら」「歳を重ねることが悲しくなったら」「生きるパワーが欲しくなったら」――“症状別”に処方してくれる、鴻上版・谷川詩集入門ガイド。
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「日本人にとっては、詩はどこか距離のあるものに感じられているような気がします。尊敬しながら遠ざけていたり、学校の空間で出会うものだと思われていたり、詩よりもロックやポップスの歌詞に親近感を感じていたり」(鴻上尚史「はじめに」より)
「詩は、自分の人生には関係ないもの」と思っている人は多い。そもそも、詩というジャンルが自分の人生に関わるかどうか考えたことがない人もいるだろう。けれども、歌や音楽を聞くとき、音楽より先に歌詞カードを見て、もしくはテレビに映されたテロップを見て、詞に感動したことがある人なら、詩はあなたの大切な趣味になるかもしれない。
『そんなとき隣に詩がいます』は、劇作家・鴻上尚史が、詩人・谷川俊太郎氏の70年近い詩作活動の中から、人生の悩み別に詩をセレクトした詩集だ。
86歳の現在もなお活動を続け、老若男女問わず広く支持される、日本を代表する詩人である谷川氏。広告や教科書に採用された作品も多く、知らず知らずのうちに谷川氏の詩に触れている人も多いだろう。詩というジャンルが気になったとき、まず触れてみるのにふさわしい作家ではあるが、あまりにその量が膨大で、どこから手を付けていいものか戸惑ってしまうことがある。
そんなとき、例えば冒頭の章「さみしくてたまらなくなったら」には、「二十億光年の孤独」(1952)や「なんにもない」(74)などから、「ひとりひとり」(2006)「うしろすがた」(16)までが収められている。どの章もテーマに沿った詩が、時代を超えて横断的に収録されているため、谷川詩に触れる初心者に向けた、間口の広い、優しいガイド本にもなっている。
詩を読んでもいまいちピンとこない、という人はいるだろう。それは単にタイミングなのかもしれないし、相性なのかもしれない。ただ、「なにか引っかかる」という人は、章末の鴻上氏のエッセイを先に読んでから詩に触れてみてもいいかもしれない。鴻上氏のエッセイには、彼と詩の関わり方や、谷川氏と語り合ったときのエピソード、テーマに関連する思いが織り込まれ、詩を受け入れる準備運動のように読者の心を温め、想像力をジャンプさせるための踏み切り台になってくれるだろう。
人によっては、詩を人生の悩みに役立てようとすること自体、不純な動機に見えるかもしれない。しかしなにも悩みがないときよりも、つらいときや悲しいとき、初めての経験で戸惑っているときの柔らかい感受性が詩を受け止めやすいことも確か。思い出すだけで、暗唱するだけで、肩に入り過ぎた力を抜いてくれるような言葉と出会うきっかけになるような一冊だ。
(保田夏子)