高級スーパーで万引きしたシングルマザーに再会……Gメンが目撃した、あまりにも切ない“その後”
こんにちは、保安員の澄江です。
いわゆる職業病なのか、行き交う人を確認してしまう習性を持つ私は、電車に乗っても乗客を確認してしまいます。そのため、電車内で女子高生を狙う痴漢を捕まえたこともあれば、網棚にある酔客の荷物を盗んで立ち去る置き引き犯を、駅員さんと一緒に追いかけて捕まえたこともありました。街中で忘れ物や落とし物に気付くことも多くて、年に何度か芸能人も見かけます。あまり人に言えない変な習性ですが、それなりに楽しんでいるわけです。
つい先日は、現場に向かう電車の中で、以前に捕まえたことのある女性と鉢合わせになりました。自分が捕まえた被疑者と、電車内で遭遇するのは初めてのこと。どことなくどんよりした彼女の姿が目に入った時には、申し訳ないことに、万引き犯を見つけた時と同じ気持ちになってしまい、ついつい目線を外した次第です。その姿を視界に入れないよう、ドア脇の手すりに寄りかかりながら雨に濡れた街並みを眺めていると、彼女を捕まえた時の情景が鮮明に思い出されました。
「パン屋をやっているんですけど、お店の売り上げが悪くて……」
およそ2カ月前、高級食品スーパーで、Mサイズのエコバッグがいっぱいになるほどの食品を盗んだ30代後半の彼女は、事務所の被疑者席で涙ながらに犯行理由を呟きました。聞けばシングルマザーだといい、離婚時にもらった慰謝料でパン屋を開業して以降、毎月の赤字に苦しんでいるというのです。
「腕に自信はあるんですけど、この1年半、ずっと赤字で……。前の旦那も、あまり養育費を入れてくれないから、本当に困っているんです」
「ご両親とか、誰か助けてくれる人はいないんですか?」
「みんな死んじゃって、頼れる人はいません。銀行もカードも目一杯借りちゃっているし、いまは滞納しているので貸してもらえないんです。実をいうと、今月は、家とお店の家賃も払えていなくて……」
今回の被害は、おにぎりや海鮮丼、たこ焼き、高級トマト、アボカド、カマンベールチーズ、地ビール、缶チューハイ、ラーメン、メンマ、煮卵、餃子など14点で、被害総額は3,000円ほどになりました。盗んだ商品を見ると、割と高額で品質にこだわったモノも混在しており、“どうせ盗るなら良いモノを”という万引き犯特有の心理が垣間みえます。彼女の話が本当だとしても、盗んだ商品を見る限り食うに困っての犯行といえるようなものではなく、同情の余地はなさそうです。
「買い取れるだけのお金はありますか?」
「ありますけど……これを使ってしまうと携帯が止まってしまうので、使えないんです」
すると、むせび泣く彼女の話を私の隣で黙って聴いていた店長が、不意に立ち上がって言いました。
「そうですか。いろいろ大変みたいだけど、それとこれとは話が別だからね。ルールなので、警察を呼びます」
「ちょっと待ってください。家で小学生の子どもが待っているんです。買わせていただきますから、警察だけは許して!」
自身の右腕にすがりつく彼女を振り切った店長は、スマホを片手に事務所を出て、所轄の警察署に通報しました。この上なく不安気な面持ちで俯き、涙を落とし続ける彼女にかける言葉はありません。しばらくのあいだ無言の時を過ごしていると、臨場する警察官が奏でる特有の足音が聞こえてきました。