『探偵が早すぎる』滝藤賢一、主演ドラマで爆発した“濃さ”と“過剰さ”の迫力
木曜深夜に放送されている読売テレビ制作の『探偵が早すぎる』(日本テレビ系)はチープな作りだが、滝藤賢一の怪演もあってか、なかなかの秀作となっている。井上真偽の同盟小説を原作とする本作は1話完結のミステリードラマだ。
幼い頃に母親を亡くした女子大生・十川一華(広瀬アリス)は、家政婦の橋田政子(水野美紀)に引き取られて、厳しく育てられていた。ある日、一華は大陀羅一族の次男であった実父の遺産・5兆円を相続することになる。しかし、その遺産の継承権を狙う大陀羅一族の者たちが雇った暗殺者から命を狙われることになってしまう。あらかじめそれを見越した橋田は、探偵の千曲川光(滝藤賢一)をボディーガードとして雇う。千曲川は悪態をつきながら次から次へと嫌味を言う胡散臭い男だが、一華の命を狙う暗殺者を次々と倒していくのだ。
事件が起きた後に探偵が登場し、トリックを解明して犯人を暴き出す普通のミステリードラマに対し、本作は犯人のトリックを探偵が事前に暴き出し、事件を未然に防ぐという点がユニークだ。この構造は画期的で、ミステリードラマではそうそう見られないアイデアである。
もともと、読売テレビ制作の深夜ドラマは、安易なミステリードラマを放送しているのだが、時々、“珍味”とでも言うような秀作に出会うことがある。恋する男が全て犯罪者という“体質”を持つ女刑事の活躍を描いた伊藤歩主演の『婚活刑事』や、超能力が実在する世界を舞台にした探偵ドラマ『増山超能力師事務所』はその筆頭だ。本作も読売テレビ制作らしいユニークなミステリードラマで、見る前はあまり期待していなくても、一度見始めると面白くて、ハマってしまう。
もう1つ、木曜ドラマがユニークなのはキャスティングだ。ヒロインの一華を演じる広瀬アリスは、千曲川との掛け合いでコメディエンヌとしての才能を発揮している。一華を守る家政婦の橋田を演じる水野美紀は、今まで演じてきた明るく行動的な女性像から一転して、クールだがとぼけたところのあるキャラを演じており、久々のハマり役だ。今後はこういう役も増えていくのではないだろうか。
何より素晴らしいのが、主人公の千曲川光を演じる滝藤賢一である。千曲川は、普段はヘラヘラしていて頼りなく、胡散臭い人間だが、常に二手三手先のことを考えている頭のキレる男だ。「神のものは神に、カエサルのものはカエサルに。トリック返し!」の決め台詞のもとに、暗殺者が用いた暗殺方法を相手にぶつけて、次々と暗殺者を倒していく。
その姿を見ていて思い出すのは、伝説的なテレビドラマ『探偵物語』(日本テレビ系)に出演していた頃の松田優作だ。男らしさの中に、人を食ったようなユーモアが見え隠れする松田の芝居は、一時期の木村拓哉がそうだったように、多くの俳優に影響を与え、今も愛されている。そのため、よく真似もされるのだが、重さと軽さのバランスが難しいため、なかなかモノマネ以上にはならない。しかし滝籐の演技は、度を越した振る舞いと演技の熱量によって、パロディを超えた迫力となっている。おそらく脇役の滝籐しか知らない人ほど、千曲川の“過剰さ”に驚くことだろう。