コラム
【連載】オンナ万引きGメン日誌

ドン・キホーテで1日7回万引きも!? 韓国、ベトナム、中国……Gメンが語る「外国人の大胆手口」

2018/08/28 16:00

 剃刀の替刃やコンドーム(0.01ミリのモノが人気)など、割と高価な衛生商品も定番といえるほどに盗まれています。意外なところで言えば、哺乳瓶やおむつ。粉ミルクなど赤ちゃんグッズの被害でしょうか。日本製の赤ちゃんグッズは、アジア諸国で評価が高く、外国人による買い占めが国内で問題になるほどの状況にあります。それによって販売制限されたことから、現地では常に品薄な状況にあり、一部の商品にはプレミアまでついているそうです。とりわけ粉ミルクの被害は深刻で、カートに載せた2つのカゴに、粉ミルクの缶を満載して店を出ていく赤ちゃん連れの若い中国人夫婦を捕まえたこともありました。

「店内保安です。お客さん、ちゃんとお金払ってもらわないと!」
「ハア? ナンタ、オマエ!? ハナセ!」

 声をかけると同時に、独特のイントネーションで私を威嚇してきた夫は、追いすがる私を無視してカートを押しながら全速力で走り出しました。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

 本来であればブツを持っている夫を押さえたいところですが、とても追いつけそうにありません。仕方なく赤ちゃんをおんぶしている妻に照準を切り替えた私は、必死な形相でもたもたと走る彼女の後方から、おんぶ紐を掴んで怒鳴りました。

「大丈夫だから、逃げないで!」

 おんぶ紐を掴む私の手に爪を立てた妻は、なにやら中国語で喚き続けていますが、何を言っているのか、まったくわかりません。まさか妻子を置いて逃げることはないだろう。その一心で、おんぶ紐を掴んではいるものの、もし夫が1人で逃げた場合には証拠となるブツがないので、いろいろと面倒なことになります。ブツの行方を気にしながら手の甲の痛みに耐えていると、古めかしい軽自動車のトランクを開いた夫は、粉ミルクの缶が満載されたカゴをそのまま積み込んで扉を閉めました。そして脇にあるカートを蹴散らすと、悪鬼の形相で私に囚われた妻子に向かって走ってきたのです。夫の凄まじい顔を見て生命の危機を感じた私は、妻の背中を使って身を隠し、彼女を盾代わりにして夫の動向を見守りました。

「ギャーッ!」

 すると、救出に来た夫に手を取られてバランスを崩した妻が、その場につんのめって派手に転びました。背中の赤ちゃんは無事なようですが、転んだ時の衝撃に驚いたようで、駐車場の鉄骨が共鳴するほどの音量で激しく泣いています。

「オマエ、シニタイカ! ホントニ、コロスヨ!」

妻が転んだことを私のせいにした夫は、私に顔を近づけて凄むと、両手で肩のあたりを突いて尻餅をつかせました。夫の手を借りて立ち上がった妻は、彼の肩口を叩いて怒りをあらわに。夫は泣き叫ぶ赤子と足を痛がる妻を抱えるようにして車に向かって歩き始めます。

車に乗られたら、もう終わり。あわてて立ちあがった私は、とにかく待ってと、大きな声で2人を制止しながら必死に追いすがります。でも、言葉が通じていないのか、彼らに足を止める気配はまったくありません。110番しようとも思いましたが、携帯電話はポシェットの中で、それを出す余裕もない状況です。このままでは、車に乗り込まれてしまう。そんな状況を前に万策尽きた私は、赤ちゃんの泣き声に負けないくらいの大声で叫びました。

「ドロボー! ドロボー!」

 すると、たまたま駐車場内を巡回していた制服の警備員さんが、すぐに駆けつけてきてくれました。運のいいことに、この警備員さんは元警察官の人。70歳を超えているとはいえ、その大きな体躯と揚げ餃子のように潰れた耳をみれば只者とは思えず、簡単には近づけないほどの威圧感を醸し出しています。私の顔を見て状況を察知した警備員さんは、夫婦の前に立ちはだかって動きを封じると、夫と睨み合いながらも無線で応援要請する冷静さです。それでも前に進もうとした夫が、警備員さんの体を払いのけた瞬間、その右手をとった警備員さんが回転していわゆる脇固めという技で地面に夫を組み伏せました。

「おい、コラ、暴れるな!」
「ワカタ、ワカタ! モウニケナイカラ、ハナセ!」

 ほかの警備員も応援に駆けつけ、もはやタジタジといった様子になった夫は、途端に勢いを失くして降参しました。

 その後、警察に引き渡された一家は、通訳担当の警察官を介して、「中国のミルクは質が悪く、自分の子どもには安全な日本のミルクを飲ませたい。中国では手に入らないから、中国に帰っても困らないために、たくさん盗んだ」と、あまりに身勝手な話をしていました。いくら質が高いとはいえ、盗んだミルクを自分の子どもに飲ませる親の心境は不可解で、その浅ましさにウンザリしたのは言うまでもありません。被害は、ひとつ2,580円の粉ミルク缶が15個、被害総額は3万8,700円(税別)にのぼりました。本来なら逮捕される事案でしたが、どうせ明日帰るんだからという理由で、運よく事件として扱われなかった一家は、宿泊するホテルを確認された後、商品を買い取ることで解放されました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

最終更新:2018/08/28 16:00
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