リアル『万引き家族』の実態……万引きGメンが見た「ホームレスのような兄妹、その壮絶な暮らし」
あっという間に弁当を食べ終えた2人は、ペットボトルの栓を開いて口をつけると、レジ袋の中から菓子を取り出しました。さすがに、食後のおやつまで与えてしまうのは、いかがなものか。そこでスイッチの入った私は、スナック菓子のおまけを見てはしゃぐ2人の横に座って、やんわりと声をかけます。
「こんにちは。おばちゃんね、ここのお店の人なんだけどさあ、僕たちお弁当のお金、持ってる?」
「…………」
「お父さんかお母さんは、近くにいるの?」
「…………」
今日も捕まらないと、きっと安心していたのでしょう。幼いながらも、声をかけられて全てを悟ったらしい2人は、だんまりを決め込みました。法的にいえば、黙秘というやつです。この2人には捕まった経験がある。そう確信した私は、彼らが食した弁当の空き箱や飲料水のボトルを犯罪供用物であるレジ袋に入れて証拠を保全し、逃走防止のため、近くにいた店員さんに声をかけて、事務所までの同行を補助してもらうことにしました。声かけ時に反抗的な被疑者は、証拠隠滅や逃走に及ぶことが多いので、たとえ相手が子どもであっても油断できないのです。声をかけたからには、完璧な状態で引き渡す。その鉄則は、老若男女、国籍を問わず、どんな被疑者に対しても変わることはありません。
2人を事務所に連行して店長に判断を仰ぐと、できることなら警察を呼ばずに、保護者を呼んで引き取ってもらいたいという意向でした。しかし、名前や連絡先を聞いても2人は何も答えず、ただ俯くばかりです。仕方なく警察に通報すると、まもなく現場に臨場した少年課の刑事さんが、困り果てた顔で言いました。
「商品の買い取りはできないと思うんですが、よろしいでしょうか?」
「どういうことですか?」
刑事さんに話を聞けば、少し前に2人を扱った時、両親がおらず認知症のおばあちゃんに育てられていることが判明したというのです。どうやら満足な食事も与えられていない環境で暮らしているらしく、前回は、児童相談所に通報して引き渡したとのことでした。万引きの現場には、さまざまな社会の闇が詰まっているのです。
「この子たち、あまり学校にも行けてないみたいで……」
刑事さんの話を聞いた私は、なにもできない自分に腹が立つような思いがして、とても悲しくなりました。憎き常習者を前にした店長も、2人の境遇が普通じゃないことを理解したらしく、封を切ってしまったお菓子を食べさせ、盗んだおにぎりも持たせています。警察に引き渡した後の彼らが、どのような処置を取られたのかわかりませんが、少なくともご飯だけは食べられる環境にいてほしい。ただ、そう願うばかりです。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)