コラム
【連載】オンナ万引きGメン日誌

リアル『万引き家族』の実態……万引きGメンが見た「ホームレスのような兄妹、その壮絶な暮らし」

2018/07/14 17:00

 最近は、万引きの現場からネグレクトが発覚することもあって、被害児童を加害者として扱わなければならない不条理に涙したこともありました。一昨年の夏、S県のベッドタウンに所在するスーパーの店長から、日常的に食料品を万引きする小学生がいるので捕まえてほしいという依頼を受けた時の話です。開店時刻に合わせて現場に入り、事務所まで挨拶に行くと、どうやら私を待ち受けていたらしい店長より、防犯カメラから抽出された手配写真を渡されました。

「一番捕まえてほしいのは、この子たちです。夏休みだから何時に来るかわからないけど、毎日必ず万引きしにくるので、よろしくお願いします」

 毎日万引きされていることがわかっているなら、自分で捕まえればいいじゃないか。そう思われることでしょうが、危険負担や誤認事故を嫌って、店員などによる万引き犯の検挙を禁じている商店は多いのです。

 手配写真を見ると、ホームレスのように薄汚れた服を着た小学生らしき2人の男児と女児が、入口から入ってくる様子が写っていました。2人の手には使用感のある空のレジ袋が1枚ずつ握られており、この瞬間を見ただけでも、万引きしにきたとわかる1枚です。店長によれば、2人は兄妹らしく、親といる姿は見たことがないということでした。どんな境遇にある子たちなのだろう。そんな思いを抱えて現場に入ると、昼前のピークに合わせて、写真と同じ格好をした2人の子どもが店の中に入ってきました。2人の顔を見れば、まったく年齢に合わないギラついた目をしており、体全体から“近づくな”という威嚇意思を醸し出しています。気付かれぬよう、少し距離を取って追尾すると、前を歩く子どもたちから、何日か体を洗ってない人のニオイが漂ってきました。衣服や靴など身につけているものを見ても、全体的に黄ばんでおり、靴に至ってはアニメ柄の部分に穴が開いている有様です。

 捕まえれば、きっと面倒なことになる。

 そんな思いで追尾すると、総菜売場で弁当やおにぎりを手にした2人は、その場にしゃがんで持参したレジ袋の中に隠してしまいました。飲料やお菓子など、いくつかの商品も同様の手口でレジ袋に隠した兄妹は、レジ店員の動向を窺いつつ出入口脇にある休憩所に入っていきます。

(ここで食べちゃうのかな? お弁当を開けたら声をかけよう)

 そう心に決めて売場の物陰から2人の動向を見守っていると、よれたレジ袋から弁当を取り出し、馴れた手つきで電子レンジの扉を開いてスタートダイヤルを回しました。どうやら弁当とレンジ皿の大きさが合わないようで、弁当のパックがレンジ内で引っかかるたびに、ゴツゴツとした異音が休憩所内に鳴り響いています。

 およそ2分後、熱くなった弁当をつまむように取り出した2人は、テーブルに座って弁当のパッケージを開きました。もう声をかけなければならない状況にありますが、弁当を前にした2人のうれしそうな顔を見て躊躇した私は、どうにも歩を進められません。盗品である弁当は、回収しても廃棄されます。それならば、きっとおなかが空いているのであろう2人の腹を満たしてしまった方がよいのではないか。服務規程的に違反してしまう話かもしれませんが、そう思ってしまったわけです。

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