相思相愛だったはずの夫との仲を義母に引き裂かれ、2人の息子を連れ去られた
『わが子に会えない』(PHP研究所)で、離婚や別居により子どもと離れ、会えなくなってしまった男性の声を集めた西牟田靖が、その女性側の声――夫と別居して子どもと暮らす女性の声を聞くシリーズ。彼女たちは、なぜ別れを選んだのか? どんな暮らしを送り、どうやって子どもを育てているのか? 別れた夫に、子どもを会わせているのか? それとも会わせていないのか――?
第16回 有井なみさん(仮名・30代前半)の話(前編)
「自分で言うのもなんですけど、私の人生って激動すぎると思いません? 『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)が全然、鬼だと感じない。“私の姑の方が鬼だったよ!”って言いたいです」
マジシャンの有井なみさんはそう話す。現在、9歳と6歳の2人の息子と一緒に暮らしているが、一時は、その子どもたちを連れ去られ、ひとりぼっちになっていたという。そんな有井さんが“激動すぎる”と話す体験を伺う前に、まずは元夫との出会いについて話してもらった。
「関東のやや郊外にあるベッドタウンで育ちました。美術大学卒業までは、ずっと実家住まい。マジックは小さいときからやっていて、美大に通っていたときのバイトも新宿のマジックショップでした。元夫のHはバイト仲間でした」
■最初は相思相愛のラブラブカップルだった
――Hさんは、どんな方ですか?
温和な性格で、怒ったところを見たことがなく、行きたいところややりたいことを私に押し付けてきたりもしない。それどころか私の好みをくみ取って、先回りして選んでくれる。そんな彼を、私は好きになっちゃったんです。相思相愛。周りから見たらベッタリくっついてるラブラブのカップルって感じだったんでしょうね。
――完璧な関係じゃないですか?
ところが、付き合っているうちに嫌な部分が出てきた。1つは誰かに依存したい体質だってこと。あともう1つは、彼がマザコンだということです。母親と毎日とりとめのない内容のメールのやりとりをしていていましたし、半熟のゆで卵の作り方をわざわざ電話して聞いてみたり、母親に耳かきをやってもらってるっていう話を自分からしたりするんです。
Hさんと2年付き合った頃、有井さんは妊娠していることに気付く。それを機会に2人は結婚し、関東の郊外にある賃貸マンションで同居を始めた。今から10年前のことだ。
――子どもが生まれたらどうするかといった気構えはあったんですか?
ベビー用品をそろえたり、育て方を本やネットで調べたりしました。2人して話し合ったりもしましたよ。それで生まれる直前になって、彼はこんなことを私の両親の前で言ったんです。「洗濯とか掃除は、昼空いてる私が全部やります」って。
――頼もしい約束ですね。彼は昼の時間が空いているんですか。それで実際、やってくれたんですか?
いいえ。赤ちゃんが生まれても、朝から夕方まで寝てて、何もしてくれないんです。というか、約束したこと自体忘れてるんですよ。
――それはひどいですね。
赤ちゃんが全然おっぱいを飲んでくれなくて、毎日夜泣きしてたんです。昼は昼でお世話をしなきゃならない。だから私、その頃は慢性的な寝不足でした。一方で、彼は昼間ずっと寝てて、掃除や洗濯はまったくやらないんです。だから結局、私がやってました。そんな感じでずっと寝不足のまま、育児も家事もすべて私がこなしてたせいか、心身共に追い詰められちゃって、「離婚」という言葉が頭に浮かびました。
――では、全然、子どもの面倒は見てくれなかったのですか?
家に友達が遊びに来るとか、そういう人目があるところでは、オムツを替えてくれたり、抱っこしたり、あやしたりしてくれました。だけど、普段、家では家事や育児を全然やってくれなかったです。