「介護舐めるな」と批判噴出――“訪問介護をボランティアに”財務省の提案に、現場の本音は?
訪問看護に携わった経験のある看護師、吉岡さんには少し客観的な意見を聞いてみた。「ボランティアについてはあまり詳しくはないが」と前置きをしつつも、医療専門職の視点から答えてくれた。
「今の介護保険制度で、ヘルパーは仕事としてサービスを提供しているから回っているけれど、ボランティアとなるとサービスの質は確実に落ちるんじゃないでしょうか。ヘルパーは、例えば家族と一緒に住んでいる人には提供できないサービスがあったり、病院に同行しても先生の説明を聞くことはできないなどと、できる仕事とできない仕事の線引きがはっきりしているんです。実際訪問看護に行くと、家族はいるけれど忙しくて掃除などの家事はほとんどできていないのに、家族がいるという理由でヘルパーが掃除に入ることもできず、劣悪な環境で暮らしている高齢者もたくさん見てきました」
それだけに、ボランティアが何の線引きもなく生活援助を行うと、問題も発生するのではないかと危ぶむ。
「ボランティアが『誰かの役に立ってうれしい』程度の気持ちでやると、利用者から何でも頼まれてズルズルと引き受けてしまったり、家庭内部に入り込みすぎて、1人で抱え込んでしまったりもするでしょう。甘える家族だと際限なく甘えてきますから。家庭の秘密を外に漏らすなどのモラルの問題やお金のトラブルも起こると思う。問題が起こると、今まで真面目にやってきたヘルパーの信頼まで薄らぐでしょう。震災のボランティアとは違って、生活援助はずっと続くもの。日本はボランティア文化が根付いていないので、問題が噴出する気がしてなりません。結局困るのは、サービスを利用する高齢者です」
さらに、こんな憤りも口にした。
「ボランティアの教育や指導などをどうするのか、具体的に決めることなく現場に下ろされることになるのではないかと疑ってしまいますね。ボランティアだからといって教育をしないで良いわけはないでしょう。でも、それを誰がするのか。介護事業所が教育するとして、その費用は誰が持つのか。役所って、細かいところを決めずに現場に下すことが多くて、病院でもそれぞれやり方が違うということはよくあるんです。現場が混乱するのは目に見えています。何よりこの提案、厚労省が言ってるのではなく財務省が言っているというところに、切りやすいところから切るんだなというイメージを持ってしまいます。結局切り捨てられるのは、弱者ですよね」
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もしボランティアが生活支援サービスを担うことになると、その質をどう担保するのか、どう平準化するのか、介護にかかわる他職種と情報をどう共有していくかが課題になるだろう。ボランティアの良心だけに委ねるのはあまりに乱暴だし、需要に見合うだけのボランティアの数をきちんと確保できるのかも不確定だ。有償ボランティアなどとするなど、報酬と一定の研修は不可欠だろう。
いずれにしてもこれはまだ提案の段階。今後この提案を取りまとめる際には、生活援助サービスを点として見るのではなく、総合的に捉えたうえで充分検討を重ねてほしいと思う。
※1 要支援・要介護認定を受けた人からの相談を受け、利用者にもっとも適切なサービスを組み合わせたケアプランを作成し、総合的なコーディネートやマネジメント管理をする
※2 訪問介護サービスのコーディネート業務をする。訪問介護計画を作成し、ヘルパーにサービスの指示をするほか、ヘルパーへの技術指導や勤務スケジュールの組み立てなどもする