カルチャー
『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』インタビュー・後編

「取り返しのつかないオナニーをしている」死を見て興奮する“わたし”の苦しさとは

2018/04/10 16:00

(C)ペス山ポピー/新潮社

 ペス山さんが主食にする“暴力AV”だが、性欲が掻き立てられる一方で、「暴力に心を痛めるし大嫌い なのに股間だけがいうことをきかない」と、健全な倫理観が自分の首を締めた。幼少期から「自分がものすごく気持ち悪い」と、幾度となく自己嫌悪に陥った。あげく、祖母からの「(結婚や恋愛をしないと)人として生まれた意味がない」との言葉が、さらに自罰傾向を加速させた。孤独感がペス山さんの足に、いくつもの囚人鉄球をつけた。

――暴力モノのAVで性的興奮することに関しての、「自分の倫理観と股間で葛藤する」という描写が印象的でした。ポップに描かれていますが、実際はとても苦しんだのではと思います。

ペス山 正直、今でも苦しいですね。だいぶ笑えないAVで興奮するんですよ。引かれると思いますが、ザリガニを踏んだりするフェチモノAVもありまして。グロテスクで可哀相で吐きそうになるのに、興奮してしまったことがあります。「わたしは、取り返しのつかないオナニーをしている」と、生きていてはいけない気持ちになりました。実は、『くらげバンチ』に掲載している作品バナーや、わたしのTwitterアイコンにザリガニがいるのは、それなんです。「わたしの興奮の裏には、必ず犠牲がある。あのザリガニを忘れまい」と、心に刻もうと思ったんです。今後、作品を発表していく上で、その感覚を麻痺させたくないというか。

――そうしたAVには、どうやってたどり着くんですか?

ペス山 そういったジャンルは“クラッシュ系”と呼ばれていて、たいていピンヒールを履いた女性が何かを踏んで壊したりするんです。わたしはたまたま、とあるAVサイトに貼ってあったスニーカーの画像のリンクをポチったら、「あっ! こ、これは……!」と。

――ザリガニなど、小さな生き物を潰して興奮することについて、性癖に理解のない人が聞けば、「酒鬼薔薇聖斗」を連想するかもしれません。

ペス山 実は、『絶歌』(太田出版)を読んで、他人事と思えない部分もあったんです。私がサディストだったら、こっち側だったかもしれない、と思ってしまって……。もちろん酒鬼薔薇の場合、反社会的な人格や、先天的なものや環境的なものも大きく作用していると思いますが、わたしは“ザリガニの死”で興奮できてしまうし、「まったく他人事というわけではない」と思いながら読みました。

――自分もそっち側に転んでしまうかもしれない、と。

ペス山 そういう怖さが、すごくありました。そんな性癖と付き合わなきゃいけないことや、漫画家としてなかなかネームが通らないこと、漫画のアシスタント先でセクハラにあったりで、急激に太ったり痩せたりを繰り返して、精神のバランスを崩し始めたのが、20歳の頃です。

――具体的に、どんな状況だったのでしょうか。

ペス山 漫画を読んでも面白くなくなり、当然描いても面白くないから描けるわけがないし、毎晩涙が出てくるようになりました。そうした症状を鬱病経験者の友人に相談すると、「それは鬱の症状かもしれない。そういうときは、あがかずにじっとしていろ」と言われ、毎晩泣いてじっとする日々が続きました。そうやって、だいぶ沈みきったところで、「もういいや!」と思ったんですね。「殴られよう! 人生、捨てよう!」って。もう人生最後だと思って、妄想は妄想のままにしておかず、体現して楽しんでみるのもいいか、と思ったんです。

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