「マタニティヌード」を撮る女と、不快感を覚える女――臨床心理士が“モヤモヤ”の正体を暴く
ネット上で、ブーイングの嵐が巻き起こるタレントの話題にはパターンがある。例えば、不倫騒動やモラハラ&セクハラ発言、マナー違反などが挙げられるが、その1つに“マタニティヌード”公開がある。
決して、世間から咎められる行為ではなく、最近では一般人でもこうした写真を撮るのは珍しくもないが、マタニティヌードを公開した女性タレントには、「頭の中がお花畑」「自分にうっとりしちゃって気持ち悪い」「すぐ離婚しそう」など、特に同性から容赦ない批判が飛び交うのが常。さらに批判の矛先は、昨今、ヌードではない、単なる“マタニティフォト”にまで向けられている。
これまで、MINMI、山田花子、神田うの、鈴木紗理奈、武田久美子、蛯原友里といった女性タレントがマタニティヌードを公開。「美しい」「神秘的」などの称賛の声もある一方で、やはりネット上で、彼女たちは批判に晒されてきたのだ。
なぜ女性たちは、マタニティヌードを撮るのか、そしてなぜそれに不快感を覚えるのだろう。今回、その双方の心理を、神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授である臨床心理士の杉山崇氏に聞いた。
人は「自分だったらやらないこと」が気になる
「まず撮る側の心理についてですが、妊娠は人生の転機の1つといわれています。人間はそういったタイミングで、自分の人生の物語を再確認するものなんです。カウンセリングやキャリアコンサルティングにおいては必要なことなのですが、このプロセスの中では、自分が主人公として物語を考えないといけないので、“自分のことしか考えられなくなる”。これが行きすぎてしまうと、自分中心にしか物事を見られなくなり、“頭の中がお花畑”といわれる状態になり得ます。こういう“行きすぎる人”は自己愛的な人、自尊心の強すぎる人といえるでしょう。また、『周りの人は私をこんなふうに祝福してくれるだろう』という幻想に酔いしれる社交性過剰な人もそうですね」
確かに、妊娠はその人にとって人生の一大イベント。自分が主人公である物語の一部となり、さらに“期間限定”であることから、「それを残しておこうという心理が働くのではないでしょうか」と杉山氏は語る。
ただ、そのマタニティヌードを“公開するか、しないか”の問題もある。タレントという職業柄、「話題になるはず」と公開を決める人も多いのだろうが、「正直、たくさんのタレントの方がマタニティヌードを披露していますし、世間も“おなかいっぱい”なのかもしれませんね。そもそもあまり人に見せるものではありませんから、最初は『勇気がある』と評価されていたと思うのですが」と、初期と現在の状況の違いもあるようだ。
では、一方で、マタニティヌードを嫌う人の心理はどうだろう。
「マタニティヌードは、写真を撮る人の物語の一部だけに、見させられる側としては、共感できず、批判的に見てしまうのではないでしょうか。まぁ、見なければいいだけの話なんですが、人というのは、『自分だったらやらない』と思っていることを、他人がやっていると、腹が立つものなんです。特に妊娠は、女性にとって重大なことなので、『ほかの妊婦さんはどうなんだろう?』という心理が働きやすい。最近では、5~6回と妊娠する人はほとんどいませんし、そういった“妊娠の経験値が低い”状態だと、さらにほかの人が気になるのではないでしょうか」
批判する側もまた「自分」主体のものの見方をしていることがわかる。ママタレの子育てが、ネット上で女性の反感を買いやすいのは、同様の背景があるのだろう。
「人のことを気にしすぎて、過剰に批判してしまうのは、“自分が嫌いな人”。そういう人は、自分が嫌いなところに注目していると、つらくなってしまうので、誰かを批判することで、気を紛らわそうとする。たまたま目に入った人のツッコミどころを見つけ、批判することで、心の安定をはかろうとしているんです」