羽生結弦には、なぜ“くまのプーさん”が必要なのか? “ぬいぐるみを溺愛する大人”の心理
――そもそも、なぜ大人になってもぬいぐるみを求めるのでしょうか?
唐沢 幼い子どもの場合は、ぬいぐるみが心を持っているかのように想像して語りかけるなど、友達の代わりとして扱ったり、感触で安心感を得たりすることも多いです。“愛着を持っている”という点では大人も子どもも同じです。愛着を抱く対象が何かは、そのときの環境や興味関心で変わっていき、年を重ねるにつれて、ぬいぐるみの代わりになるものを見つけて離れていく人もいれば、そのままずっとぬいぐるみを大切にする人もいるということなのではないでしょうか。
――大人になってもぬいぐるみが好きだからといって、心理的に問題があるわけではないのですね。
唐沢 ぬいぐるみは子どもが好むイメージが強いだけに、穿った見方をされがちですが、大人がぬいぐるみに愛着を持つことを、特異なことと考える必要はありません。先ほども申した通り、過度の依存でない限り、問題視されることではないと思います。対象が何であれ、その物に自分の気持ちを向けてある種の一体感を覚え、楽しい、うれしいという感情を伴うことは、自己確認できるとともに、「その物が好きな私」も好きになれるのです。それが自己肯定につながって、アイデンティティの確立や活力にもなります。人間は他者との関係で「自分は何者か」を定義するのですが、その対象は多様で、恋人の人もいれば、アイドルの人もいるし、ペットの人もいるし、一方で物やぬいぐるみであったりする人もいる。また一つに縛られる必要もないので、これらすべてという人もいるかもしれない……ということですね。
(取材・文=千葉こころ)
唐沢かおり(からさわ・かおり)
社会的認知を専門とする社会心理学者。University of California, Los Angeles(Ph.D)、京都大学大学院文学研究科博士後期課程、名古屋大学大学院環境学研究科助教授などを経て2010年より東京大学大学院人文社会系研究科教授。『なぜ心を読みすぎるのか みきわめと対人関係の心理学』(東京大学出版会)ほか著作多数。