『BG』俳優・木村拓哉が、中年男性の“弱さ”を演じられないいくつかの理由
見ていて気になるのは、木村の体形だ。年相応の中年男性としては、細身でスタイルが良すぎるのだ。40代でボディーガードをしているという設定なら、もう少し贅肉があるか、逆に過剰に筋肉質であってほしい。例えば、西島秀俊が同じ役をやっていたら違和感はないのだろう。あの体形を40代で維持している木村の凄まじさこそ感じるものの、年相応のリアルさはなく、今まで木村が演じてきたストイックなヒーロー像に収まっている。娯楽作品としてはそれでも構わないが、木村の新境地を期待している立場としては、今のところもの足りなく感じる。
『アイムホーム』以降の作品を見ていると、これまで演じてきた年齢不詳の自由なヒーロー像を更新して、大人の俳優に脱皮しようともがいているのがよくわかる。15年に端を発するSMAP解散騒動だが、結果的に、当初の計画にあった5人での独立を中居正広と2人だけ拒否してジャニーズ事務所に残ったかたちとなり、「裏切り者」というマイナスのイメージができてしまった。あのゴタゴタで露わになった木村の弱さは、木村と同じ40代で、会社組織に揉まれながら必死で働いている中年男性にとっては、他人事とは思えないものもあっただろう。
その意味でも、30代から演じてきたヒーロー像から脱皮するには、絶好のタイミングなのだが、どうにも今まで作ってきた芝居の型が、変化を邪魔しているように見えてならない。そんな現状が作品に反映されていたのが、昨年の主演映画『無限の住人』だろう。三池崇史監督のスプラッターテイストの時代劇で、木村が演じるのは万次という侍だ。万次は体内に細胞を再生させる蟲を埋め込まれた不老不死の存在で、いくら斬られても傷口が再生する。つまり、永遠に死ねない若い身体を持っている。万次は全身傷だらけで戦い続けるが、最強のヒーローというよりは永遠に戦い続ける痛々しさの方が際立っていた。
万次の不死の肉体は、年齢不詳の若いヒーローを演じてきた木村のアイドル性そのものだと言えるだろう。40代に入り、年相応の中年男性に着地しようする木村の動向は俳優としては面白い。しかし、なかなか年をとることができない姿に今の木村の困難が出ているように感じる。
(成馬零一)