中学受験は「親のエゴ」「エリート志向」? 親と子の“一筋縄ではいかない”受験事情に迫る
“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
読者も、きっと一度は“中学受験”という言葉を聞いたことがあるだろう。あるいは夜も遅い電車の中で、それらしき小学生を見かけた人もいると思う。
まったく関係しない人は、中学受験親子を「親が子どもに、無理矢理勉強を強いている」と見る向きもあるだろうし、「小市民がヒエラルキーの下剋上を狙って、子どもをエリートに育てようと画策している」と冷笑するかもしれない。あるいは単純に「子どもが可哀想」という感想を持つ人も出るだろう。
しかし、長年にわたり、中学受験の取材を続けている筆者は、当事者から上記のような声を聞くことは実はかなり少ない。それどころか、結果の如何にかかわらず「やって良かった!」と口にする親子の方が圧倒的多数なのである。
ただ、そういった心境に至るまでに、中学受験親子がさまざまな葛藤を抱えるのは確か。この連載シリーズでは、そんな中学受験を通して見えてくる親子関係を取り上げるとともに、勉強漬けの毎日で、親にとっても子にとっても、大きなプレッシャーに晒されるはずなのに、“なぜ、最後にはやって良かったと感じる親子が多いのか”ということにも迫ってみたいと思っている。
中学受験熱が冷めないウラ事情
初回である今回は中学受験というものが、どういう制度なのかを語ってみよう。まず、最近の中学受験の動向を簡単におさらいしてみる。2017年度の首都圏における中学受験者数(私立中高一貫校と公立中高一貫校の総受験者数)は約5万7,000人にのぼったと言われている(大手塾調べ)。これは首都圏(1都3県)の小学6年生の5人に1人が受験したという数字になる。少子化だ、不況だと言われて久しいが、受験者数の数字は16年からは逆に上昇しており、少なくとも、今後数年間、受験熱は落ちないだろうと識者たちは予測している。
これは20年度から実施される大学入試改革(という未知なるもの)への不安感が大きな要因になっていると考えられており、逆にそれが、新大学入試への対応力が確かだと思われている私立中高一貫校への“期待値”を高めているのだ。
今、我が国では“大学入試変更”を含めた“教育大改革”のスケジュールが、すでに決定し、進められている。そこで子どもたちが“身に着けるべき力”というのが“学力の3要素”と呼ばれるもので、すなわち、それは「十分な知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協同して学ぶ態度」なのだが、私学の多くが伝統的にそういう学習を行ってきている+これに猛烈な対抗心を燃やした公立中高一貫校の台頭により、結果として、中学受験が下火にならないのである。
そのほかにも、中学受験熱を押し上げる要因として、高校受験の門戸を閉じる高校が続出しているということもある。特に私学は早めに生徒を確保しておきたいという経営的事情もあり、ここ20年ほどで高校募集を取りやめる学校が増え続け、高校受験での選択肢が限られてしまうという傾向が出てきたのである。
これらに加え、難関大学合格者ランキングでも圧倒的に私立中高一貫校が名を連ねる現実、高2までの先取りシラバス、非行問題における環境の良さ、充実の設備、豊富な体験、海外留学などの道筋のつきやすさ、高校受験がない分ゆっくりと自分を見つめる時間を得られる、6年間というスパンで育まれる一生ものの友人関係……などというメリットが評価されているという面も大いにある。
これらがトータルで得られて「お値段、月々6万円(授業料平均)。お子さんにいかがですか、親御さん?」というキャッチで、中学受験業界は親にセールスを仕掛けている次第だ。