仲介会社の「仮契約しましょう」、玄関に○○の隣人はNG! 賃貸探しのトラブル回避法
――「仮申込み」のほか不動産仲介で悪質なケースはありますか?
鈴木 進学で上京してきた学生さんは、右も左もわからないので被害に遭いやすいですね。学生さんのライフスタイルに合わせてではなく、仲介会社が契約させたい物件に押し込むので、学校から遠すぎるという悪質なケースもあります。
知人から聞いた話ですが、北海道からお子さんが進学で上京される、とのことで、お父さん、お母さんは事前に十件以上候補を選んでいたそうです。そして、ある有名な仲介会社に事前に連絡したところ「空室ですので、ぜひ来てください」と言われ、いざ家族3人で上京したら「そんな物件もうないですよ」と態度が一変し、別の物件を強引に薦められたそうです。
そこで、ご家族はおかしいな、と思い店を出たところ、ちょうど向かいに私の知人が働く仲介会社があり、いい物件が決まったそうです。進学の家探しはタイムリミットもありますからね。6時間で家を見つけないといけない、とか。
――仲介会社が「推す」物件ってありますよね。
鈴木 「推し」物件は“広告料”のあるケースが多いですね。広告料とはオーナーから仲介会社に「決めてくれてありがとう」と渡されるお金で、家賃の半月~1か月分くらいです。
――本来、仲介会社が受け取る金額は、仲介手数料(たいていが家賃の1カ月分)と決められていますよね。
鈴木 定められています。当社も1カ月分の家賃×消費税をいただいています。
――そこに、広告料が大家さんから別途入るのであれば、入れたい事情も見えてきますね。
鈴木 広告料がついている物件しか紹介しないという方針の仲介会社もありますよ。ただ、本当にいい物件は広告料なしでも決まります。ものすごくいい物件ですと、仲介手数料が通常の半分(家賃の0.5カ月分)しかないという強気な物件すらあります。それでも、そういった物件は条件がいいのですぐ決まるんですよね。
管理会社の心を動かすテクニック
――仲介で家が決まった後は、管理会社のお世話になるわけですが、管理会社の良し悪しを事前に見抜くポイントはないのでしょうか。
鈴木 難しいですね……。当社も仲のいい管理会社はあるのですが。昔からの管理会社さんの中には融通がまったく利かないところがある一方、新しければ雑だったりするところもありますし。私のところでは、「良くないな」と思う管理会社が管理する物件は、お客様に紹介しません。
――騒音など入居者トラブルが発生したときに、入居者が管理会社を動かすコツはありますか?
鈴木 とにかく、下から、下から行くことです。相手も人ですから。「隣の音うるさいんですけど!!」では当然、管理会社の対応も悪くなります。私も電話するときは、すごい下から行きますよ。
――「私は被害者だ、金を払っているのだからなんとかしろ!」のスタンスでは、何も解決しないどころか、かえってイライラを募らせるだけでしょうね。
鈴木 はい。管理会社も日々そういった電話を受けていますから。なので、「この人、ほかのクレームとは違う……!」と、管理会社の人に「動いてみよう」と思ってもらえることが大切なのですね。
■毎月20億の「家賃未納」がある?
――保証会社(家賃保証会社)への加入が必須の物件も多いですよね。
鈴木 増えてきていると思います。契約時に賃料と管理費の合計の50%、毎年更新料で1万円を払うケースが多いですね。
――私はまったく滞納していないので、理不尽な出費だなと思うのですが。
鈴木 ただ、滞納は多いんです。当社と提携している保証会社は、昨年1カ月で家賃が支払われなかった額が月数十億円ほどになるんだそうです。事務所や店舗も併せてですが。
――年でなく、月数十億円ですか! こういった場合、差し押さえなどをするんですか?
鈴木 いえ、入居者保護の方が強いのでなかなか難しいですね。3カ月滞納しても追い出せない、というのが裁判所の判例であります。また、3カ月に1回払えば「払う意志がある」とされ、つまり年3~4回払えば住めるぞと。こういった情報が今だとネットで共有されてしまうんです。「滞納に業を煮やした家主が借主の鍵を交換しても、それは交換した家主が悪いと言えるぞ」とか。
――「盗っ人猛々しい」状態ですが、対策はないのでしょうか。
鈴木 保証会社も横のつながりを深めています。滞納が続けばブラックリストに載って、何回も滞納したら、日本の賃貸物件にはどこも住めなくなるようになっていくでしょう。さらに住宅の保証会社だけでなく、クレジットカード、エポスさんやジャックスさんといったクレジットカードとつながりもできていますので、カードの支払いに遅延、未納があれば、住居も借りられなくなる流れができつつありますね。
不吉なオーラを漂わす、ぎょっとした物件
――さまざまな物件を見てきた鈴木さんが、ぎょっとした物件はありますか?
鈴木 「水のトラブル」「暮らし安心」系のサービス会社さんは、冷蔵庫やドアに貼れるマグネット広告をよく使っていますよね。そのマグネットが、エレベーター中にびっしりと隙間なく貼ってある物件があり、あれは怖かったですね。鳥肌が立ちました。紹介リストからは即外しましたよ。別の物件で、入居者さんが希望していた隣の部屋のドアに、同じようにたくさんのマグネットを円形に貼っていたケースもありました。
――「暮らし安心」どころか「暮らし不吉」ですね。
鈴木 その物件は家賃が高めの、設備のいい一人暮らし用の物件だったのですが、当然、こんな隣人のいる物件はお客様に紹介できないですね。
あと、大家さんとの同一建物の物件で、大家さんが個性を出しすぎている物件もちょっと危険ですね。例えば、各階に大家さんが人形を置いていたりするのは、「自分のモノ」という意識が強いタイプなので、住みにくいかもしれません。
――いろいろと参考になることばかりですね。今後、仲介業者としてやっていきたいことはありますか?
鈴木 いい仲介業者と悪い業者を見分けるのは難しいものです。CMを流しているからいい業者、なんてこともないため、「どこの業者がいいのか」という目安を作りたくて、社団法人日本賃貸仲介協会を設立しました。この協会では、仲介業務の従事者向けの資格も作り、すでに10何社に加入していただいています。賃貸契約の予定がある方は、日本賃貸仲介協会のホームページを見ていただくと、参考になるかと思います。
(石徹白 未亜)