BLが廃れるときは来るのか? 溝口彰子氏が語る「イケメン同士の恋愛」を描く先にあるもの
「進化形BL」は、性の多様性に寛容な社会を描くだけでなく、当事者であるゲイが抑圧されずに自分らしく生きていくようなストーリー構成が特徴で、その代表作が溝口氏によれば、中村明日美子氏の漫画「同級生シリーズ」だという。
「舞台は男子校で、主人公は茶髪でチャラくて女の子にモテモテの草壁くんが、ふとしたきっかけで優等生の佐条くんと仲良くなり、恋に落ちていくストーリー。この展開自体はよくあるのですが、自分の同性愛感情の気づきや、友達や両親にどうカミングアウトするのかなどが、丁寧に描写されていて、現実社会でも参考になるほどリアルなのです」
このシリーズは現在6冊発売されていて、主人公2人の恋愛だけでなく、中年男性と高校生のカップルも登場し、今の日本には表出し得ない性のあり方を受け入れる社会が描かれている。
さらに重要なのは、「進化形BL」の作者の多くが「この社会で同性愛者がより幸福に生きられるためにはどうすればいいのか」といった命題を特別に意識せず、自らと読者を楽しませるため、想像力を膨らませながら、娯楽作品として生み出している点にあると、溝口氏は指摘する。そのため、性の多様性を読者も楽しみながら理解できるのだ。
■同性愛者に対する偏見がなくなれば、BL文化は廃れる?
一昔前まで「禁断の愛」として扱われることが多かったBL。それゆえ、同性愛者に対する偏見がなくなった結果、タブー感が薄まり、魅力を失うということにはならないのだろうか。
「確かに同性愛が社会に受け入れられることで、タブーとしての描かれ方はされなくなるかもしれませんが、以前対談したBL好きで知られる作家の三浦しをんさんが言われたことが一番端的な説明で、私も同意します。つまり、『異性愛が一般的な日本社会で、男女の恋愛物語が描かれない時代はなかった』ということです。人間同士が一緒にいれば、何らかの軋轢、感情が生まれ、ドラマに発展します。それは社会状況が変化しても変わらないでしょう」
諸外国と比べて、日本においては同性愛者の人権をめぐる法的な整備などが遅れている。そんななか、有名俳優がラジオでBL好きを公言したことが話題になった。また、男性アイドル同士がキスをしてみせるなど、男性同士の親密さを女性ファンに向けて“演じる”ことも増えてきた。それに対して「BLという枠組みを利用している」との批判もあるだろう。しかし、このように社会においてBLを自然に受け入れる動きが広がり、幸福に生きるゲイ・キャラクター像が一般化することで、根強いホモフォビアが現実から払拭されるのだとしたら、「BL利用」も、偏見をなくすことに最終的にはつながるのではないか。
また、一方で美少年同士がイチャイチャするのを見るのが好きでも、中年のおじさん同士がチューするのは気持ち悪いと思う人もいるだろう。しかし、近年の商業BL作品では、「同級生」シリーズをはじめ、キャラクターの年齢層が幅広くなっている。中年男性間の恋愛関係を描き、多くの支持を集める作品もある。そのようなBLを読み、それが胸を打つような作品であれば、読者はゲイにも平等に幸せになる権利があるという当たり前のことを、あらためて楽しく理解できる。その「理解」は現実社会についての認識にも少なからず影響を与えるだろう。
BLが性の多様性を学ぶための必須バイブルになる日も近いかもしれない。
(福田晃広/清談社)