カルチャー
『女子と乳がん』著者・松さや香さんインタビュー

「乳がん闘病=お涙頂戴」ムードに違和感! 寛解した女性が世間に“異議”を唱える理由

2018/02/07 15:00
『女子と乳がん』(扶桑社)

 昨年6月に亡くなった市川海老蔵の妻・小林麻央さんをはじめ、北斗晶、南果歩など芸能人の乳がん発症が報道されたり、本人がブログや手記などで闘病体験をつづることも少なくない。乳がんの闘病記や関連書籍と聞くと、淡いピンク色や小さな花がちりばめられた表紙の本をイメージする人が多いはず。そして、そうした作品の多くが、ドラマチックに描かれた“感動の実話”をウリにしている。

 しかし、昨年末発売された『女子と乳がん』(松さや香/扶桑社)の表紙は、さわやかな青と黄色、ポップなイラスト。ページをめくれば「わたしと彼女の宗教戦争」「漆黒の黒歴史が爆誕 乳がんヌード」など、ブラックユーモアを交えた乳がん患者の経験談が綴られている。同書は書店ではサブカルチャーの棚に並べられ、乳がんエッセイ界(?)では、異端な存在となっている。

■小林麻央さんのブログを読めない理由

 『女子と乳がん』著者の松さや香さんは、29歳のときに若年性乳がんに罹患し、現在は41歳、寛解。先日まで国際線の客室乗務員として働いていた。前著『彼女失格 恋してるだとか、ガンだとか』(幻冬舎)では、自身の闘病について“治療費”や“治療中のセックスについて”など、これまでにない切り口で若年性乳がんを綴り、話題となった。そんな彼女が2作目の題材に選んだのが、乳がん患者と世の中の間に漂う「違和感」だった。

「本屋で乳がんに関する棚に行くと、必ずといっていいほど淡いピンクの表紙の闘病手記が並んでいます。この棚は『美しい愛のドラマが見たい!』という大衆のニーズを象徴していて、乳がんの当事者とはかけ離れた存在なんです。私は若年性乳がんになって初めて乳がんの棚に行ったとき、愛のドラマと著者のポエムが書かれた手記ばかりで途方に暮れたのを覚えています(笑)」

 乳がん患者にとって、近くて遠い“闘病手記”。それは、乳がんについてのニュースを報道するメディアやマスコミについても同じだった。小林麻央さんの報道についても、松さんは複雑な気持ちを抱いていたという。

「私、麻央さんのブログは一切読んでいないんです。これを言うと『同じ乳がんなのに?』と驚かれるのですが、乳がんだからこそ“読めない”んです。もちろん、麻央さんにはがんばってほしいと思っていましたが、治療中のツラさを思い出してしまうし、治療の経験やがんのステージについて知識があるので、自分も彼女と同じ進行状況になっていたら……と想像してしまい、怖くなってしまうんです」

 その一方で、マスコミによる闘病報道は過熱。連日、テレビのワイドショーではブログが朗読され、闘病中の写真が掲載された週刊誌やネットニュースがあふれた。なかでも、乳がん治療中の女性にとっては、麻央さんの情報をシャットアウトできないツラい状況だったはず、と松さん。

「私の個人調査なのですが、麻央さんのブログを真剣に読んで、ニュースをチェックしていたのはママさんが多かった印象です。彼女を乳がんの女性ではなく“病気になってしまったお母さん”と捉えて、自分に重ねていたのかもしれません。一方、マスコミ側は乳がんのニュースではなく、海老蔵さんと麻央さんというセレブリティゴシップの扱い。麻央さんが伝えたかった“乳がんへの理解”につながったとは、言い難い結果になってしまいましたよね」

 彼女に関する一連のニュースは、乳がんを身近な病気ではなく、特別な愛のドラマの小道具にしてしまったのだ。

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